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誤 解 (大久保side)


〜大久保side〜

今日は桂君と定期情報交換をする為、町へ出掛けた。
八重にいうと、ついてきそうなので、あえて『所用』
とだけ言って、出掛けたのだが、そのせいで
面倒を起こすとは思いもしなかった。

「では、まだ、新撰組は・・・」
「ええ、私たちの動きを察知してないと思われます」

桂君の情報は迅速且つ正確だ。
大っぴらに会うことも、憚れるので、女装した桂君と話す。
主な情報交換を終えると、思いついたように桂君が

「そういえば八重さんは元気ですか?」

と聞いてきた。

「特に問題なく、藩邸で呑気に暮らしておる」
「大切にされているんですね」

意味ありげな笑みを湛えて言う。

「・・・あれは坂本君からの預かり者だからな」
「本当にそれだけですか?」

目を細めて桂君が問う。

「何が言いたい?」
「いいえ、晋作が彼女に執着してるので、
大久保さんの手に余るなら、こちらで・・・」

「・・心配無用だ」
「冗談です、大久保さんの大切な人を奪ったりはしません」
「・・・」
全く、桂君は侮れん。
しかし、それだけ私が小娘に振り回されている、
ということであろうか?
・・・いや、小娘の言動に、振り回されている実感はある。
この、大久保が、だ。

可笑しそうに笑っていた、桂君が、通りに視線を移し
あれは・・?と声を上げた。

「どうした?」
「今、八重さんがこちらを見ていたような」
「小娘が?」
「ええ、一瞬だったのですが・・・」

小娘には一人で買い物に出ないように、きつく言いつけてあるが。
しかし、あの小娘のこと。
油断ならない。
そして、もし、出歩いてこの場を見ていたとしたら、
あの思い込みの激しい小娘のことだ、あらぬ誤解をしてるやもしれぬ。

「桂君、申し訳ないが藩邸まで付き合ってもらえるか?」
「承知しました」

     ******

藩邸に戻ると、女中頭の鈴がやってきて、小娘の様子が
おかしいことを伝えてきた。
その際に、今日、小娘が一人で出歩いたかを聞くと、
言いづらそうに、

「すみません、私が頼んだのです」

鈴が頭を下げて言う。

「気にするな、どうせ小娘が強引に出掛けたのであろう?」

予想通り・・・ということは、
桂君が見かけたのは小娘の可能性が高い。

具合が悪いと言い訳して寝ている、小娘の部屋に声をかける。

「おい、小娘、起きているか?」
「・・・はぁ」

寝起きのような声が聞こえ、障子をあけると、
そこには目も当てられない、寝乱れた姿が!
寝像が悪いと聞いてはいたが・・・寝巻ならいざ知らず、
着物がここまで、どうしたら乱れるというのだ?

「小娘!」
「は、はい!」

私は寝ぼけ娘に一喝する。

「お前は年頃の娘だという自覚もないのか?!」
「へ?」

寝ぼけているのか、自分の様子が把握できていないらしい。

「・・・とにかく、身支度を整えて私の部屋へ来い!」
「は、はい!」

それだけ言うと、障子をパタンと閉じる。
少し後ろに控えていた桂君は、声を出さずに笑いを堪えていた。

   *****

身支度を整えて小娘が部屋へやってきた。

「八重です」
「・・・入れ」

入るなり、顔面蒼白な八重。
これは、完全に誤解をしている事が明白だ。

「・・・座れ」

座るように促し、落ち着いたところで、話を切り出す。

「小娘に紹介しようと連れてきた」
「・・はい」

まだ、何も話さぬうちから、八重はすっかり委縮しているように見えた。

「・・・小娘、何を気構えておる?」

すると、ビクっと体を震わす。

「どうせ、その小さい頭でロクでもないことを
考えておるのだろう?」


そして、考えてる割に真相にはたどり着けていない。

「彼女は・・いや、彼は桂君だ」
「はぁ!?」

私の言葉が、想定外だったのか、間抜けな声を上げる。

「ん?なんだ、間抜けな顔をしおって」

やはり、ロクでもないことを考えていたな。
口角を上げてニヤリと笑うと、更に面喰ったように
奇声を発する。

「ええぇぇ!?」
「久しぶりだね、八重さん」

優しく微笑みながら桂君が挨拶をする。
小娘は・・・言葉が出ない。

「私もあまり大っぴらに大久保さんと
会うわけにも行かないからね」


少し困り顔で言う。
そして、気の抜けた感想を述べる小娘。

「桂さん・・・綺麗ですねぇ」
「・・・あまり褒められても嬉しくはないんだけどね」

複雑そうに桂君が言う。
女装が似合うなんて誉め言葉にもならない。

「小娘も少しは桂君を見習ったらどうだ?」
「・・・ぐぅ」

冷やかすように言うと、いじけたような声を出す。

「小娘、理解出来たら、茶を淹れてこい」
「あ、はい!」

桂君に退席の挨拶をして、部屋を出る。
しかし、先ほどと打って変って機嫌は良さそうだ。

「大久保さんも苦労されますね」

普段の状況を察したかのように、桂君が言う。
まあ、これも私の選んだことだ。

このあと、桂君を見送ると、私は約束を違え、
一人出歩いたことについて、説教をしたのだった。

<end>


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