QLOOKアクセス解析 小説本文 | ナノ



妥協点


「・・・反省しているのか?」
「何故、反省しなければならないんですか?」

八重の部屋で、指し向かいで話す。
お互いにしかめっ面をしていることは、
火を見るよりも明らかだ。

物事、自分の持つ常識が通用しないことが多々ある。
特に政などはその典型であろう。
しかし・・・日常に、身近に非常識が存在していると、
思いのほか人間は、反応に困るものだ。

事の起こりは、八重の新しい着物を取りに出たことが始まりだった。
呉服屋につくと、後ろを歩いてはずの八重の姿がない。
かどわかされた、とは思はないが、何かしら面倒に
首を突っ込んでいるだろうと、想像がついた。

「私ね、人より目がいいのよ、
先にぶつかったのは、アナタよ?」


感情的になるわけでもなく、淡々と語る口調。

「うるせえ!その女が先にぶつかって来たんだよ!!」

それに対して、いきり立ちながら大声を上げる男。

「それで?こんな小さい子相手に、大の大人が複数で
寄ってたかってイジメてるの?」


複数?
あ奴は何をしているのだ?!
声の現場は呉服屋から目と鼻の先で、人だかりが出来ていた。

人だかりを掻き分け行ってみれば、八重が3人の浪人相手に
冷静に対応していた。

「てめえには関係ねぇだろ!!」
「関係あるわよ、弱い物イジメ見過ごすわけにいかないもの」
「大体、女のくせに口答えしてんじゃねぇよ!!」
「・・・その言い回し、アナタ頭悪そうねぇ」

怒号を上げる男に対して、あくまで冷静に淡々と話す。

「てめぇ・・男に敵うと思うなよ!!」

男たちは完全に怒りで我を忘れている。
八重は私を見つけると、目だけで笑ってみせる。
「お嬢さん、あの薄紫の羽織の人の元へ行きなさい!」

そういって、怯えてる女子の背中を押した。
と、同時に一人の浪人が斬りかかった。

「脇が甘いわよ」

一瞬の出来事だった。
スッと刀を避けると、鳩尾と後ろ首に打撃を加える。
不意打ちを食らった男は、刀を落とし蹲る。

八重はそのまま、男の刀を拾い上げると

「刃先がぶれてる」

斬りかかる2人目の浪人の鳩尾に刀の峰を強く当て、
小太刀を引き抜くと反対から来る浪人には
引き抜いた小太刀の柄を、同じく鳩尾に当てた。

あっという間に3人の浪人が、その場にみっともなく蹲っている。

「刀、返すわね?」

そう言うと、蹲る男の脇に突き刺した。
少し乱れた着物の裾を手早く直す。
私の元にいた女子が八重の元へ駆け寄る。

「お姉さん強いんだね!」
「護身術よ、お嬢さん可愛いから、
覚えておいたほうがいいわよ?」


優しく女子の頭をなでると、唖然としている観衆を尻目に
私の元へ戻ってきた。

「お時間とらせました」
「藩邸へ戻るぞ!」

あ奴がいうが早いか、私は踵を返して歩き出した。

    *****

「・・・反省しているのか?」
「何故、反省しなければならないんですか?」

そして、今に至る。
言われていることに納得のいかない八重と、
そもそも、こ奴の思考回路が理解できない私。
話は平行線を辿って、いつの間にか茶が冷めきるほどの
時間が経った。

「わかりました、私、今日から男になります」
「なっ?!」
「男であれば、外で大立ち回りしようが問題ないですよね?」
「・・・」

思いつき・・・とは思えないほど、真剣な眼差しで言われる。
何故、ここまで拘る?
理解に苦しむ・・・・。

「私は、困っている人がいれば助けたいし、
出来る仕事が有れば、どんなことでもやりたいです。」


一息ついて、言葉を続ける。

「それに男装して出掛けたら、大久保さんの護衛出来ますよ?」


「・・・お前に護って貰うほど柔じゃない」
「じゃ、小姓で・・・」
「わかった、好きにしてみるがいい」

八重の言葉を遮るようにして、許可を出す。

「では、男物を見繕わせよう」

話はとりあえずついた、自室に戻るべく立ち上がりながら言う。

「ありがとうございます!」
「その代わり、独りで出歩くな」

自室への襖を開けて、振り向かずに言う。

「え?独りで町中ぐらい歩けますよ?」
「お前は目を離すと何をしでかすか、わからんからな」

「・・・信用ないですねぇ」

じぃっと、拗ねるように八重が言う。

「あんなことを仕出かした、お前に信用なんぞない」

顔だけ向け口角を上げて言うと、パタンと襖と閉じる。
きっと今頃、憮然としているかもしれない。

「全くわからんな、しかし面白い・・・」

くっくっくと、自然に笑いがこみ上げる。
今まで周りに居なかった種類の人間だ。
あ奴が来てからというもの、全く飽きさせることがない。
危なっかしいことも多いが、とりあえずは
楽しませて貰う事としよう。

<end>

☆目次☆


☆comment?☆