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チ ェ ス ♪(設楽×主人公)


「うう・・・聖司さんはやっぱり強い」
「違う、お前が弱すぎるんだ」
1週間ぶりに聞く八重の声。
おれがフランスに留学して半年が過ぎた。
週末は八重とオンライン・チェスをして、その検討を含めた電話が
唯一の楽しみだ。
「あ、聞いてください!レーティングが1000超えたんです!」
電話の向こうで彼女が嬉しそうに言った。
「この程度のゲーム内容で1000超えたというのか?」
「この程度のゲーム内容で1000超えてたんです」
オウム返しのように彼女は言う。
レーティングとはチェスの強さを示す数値だ。
初心者は大体500前後だから、だいぶ強くなったのだろう。

彼女が初めてチェスに触れたのは高校2年生の春だ。
昼休みの屋上で紺野にチェス講座をしていたところに
偶然来たのがきっかけだったと思う。
それから2年半しか経ってないというのに、その上達ぶりには目を見張るものがある。

「聖司さんにも5回に1回は勝てるようになったし」
得意げに言う。
「5回に4回は負けている、それは自慢にならんだろう」
「でも、最初のころに比べればまともにゲーム出来るようになりましたよ!」
まあ、確かにそうだ。
最初のころは駒の動かし方も知らず、ゲームにもなっていなかった。

「しかし、どこでレーティングはかったんだ?」
「大学です、聖司さんに勝つためにチェスサークルで
猛特訓してるんです」

弾む声でいう。

ちょっとまて。

「・・・チェスサークル?」
「チェスをするサークルです」
八重は得意そうにいう。
言われなくなって、それはわかる。
問題はそこじゃない。
「いつチェスサークルに入ったんだ?」
少なくともおれが日本にいる間は、サークル活動してるなんて聞いていない。
「聖司さんが留学して、すぐぐらい?」
ということは、すでに半年サークル活動してるってことか。

おれは初耳だぞ!!

「聖司さんのレーティングはどれくらいなんですか?」
おれの困惑を余所に話を続ける。
「・・・おれは聞いてないぞ」
声のトーンを落として、不機嫌な声が出る。
「あれ?お話してませんでした?」
彼女のトボケた声が聞こえる。
「大学のチェスサークルでいろんな人とたくさん
ゲームして、教えてもらったり」

日々の大学生活が楽しいというのは、普段の話でもわかっていた。
それでも、サークル活動をしていると知って、
何故か少しずつイライラが募る。
留学してから良く手紙やらメールやらしてくる彼女だが、その中にサークルの
話がなかったからかもしれない。
「ふぅん・・・おれは知らなくていいことなんだな」
「え?」
「おれが日本にいない間、随分楽しそうだな」
「!?」
彼女が絶句しているのが無言でわかる。
別に意地悪をしたいくて言ったわけじゃない、おれだってこんなこと
言いたかったわけじゃない。
「・・・拗ねてるんですか?」
意外なほど平然とした声で言う。
「なっ・・・!」
思わず核心を突かれ、逆にうろたえてしまった。
それを気配で察したかのように、笑い声が受話器の向こうから聞こえる。
普段”超”がつくほどの鈍感のくせに、こんなときばかり
察しが良い・・・。
「別に拗ねてないぞ、拗ねたなんて言ったか?言ってないぞ!!」
我ながら言い訳がましい・・・・。
「そうですか、ならいいんですけど」
笑いを噛み殺したような声で言う。
でも、と話を続ける。
「先日の夏休み、紺野先輩そちらに遊びに行かれましたよね?」
確かに夏休みに紺野が遊びに来た。
美術館を巡りたいとかで付き合わされたんだ。
いきなり脈絡のない話を振るのは八重の得意技か?
「ああ、それがどうかしたか?」
「紺野先輩からは聞いてないんですか?」
「なにを?」
「サークルの話ですよ」
「・・・お前、おれに言わず紺野には話したのか?」
おれより紺野が優先か?
同じ大学にいるってだけで!
そして予想外の答え。
「えー?お話っていうか・・・同じチェスサークルの仲間なのに」
「なんだそれは!?聞いてないぞ!!」
うちに1週間も滞在していたくせに、そんな話なかったぞ!
確かに、チェスが随分強くなったと思ったが・・・。
「そうなんですか、じゃあ話しそびれちゃったんですね?」
先輩らしいー、と話すが。
違う。
ヤツはあえて話さなかったんだ!
八重から話を聞いていれば、おれから紺野にサークルのことを探りを
入れると踏んで。
でも、おれは知らなかったから、そんな話をまったくしなかった。
だからヤツは知らん顔して、話さなかったんだ!!
「それで、聖司さん」
今にも叫びだしそうな気持ちを抑えて、八重の声に集中する。
「聖司さんのレーティングでどれぐらいですか?」
はじめの話題に戻る。
「さあな、はかったことないしな。しかしお前に余裕で勝てるから、おれのレーティングは1200〜じゃないか?」
レーティングに200〜の差があれば、ゲームは75%勝てるというのが定説だ。
彼女のレーティングが1000ならばおれはそれにプラス200以上だということになる。
電話の向こうでため息が聞こえる。
「まだ聖司さんに追いつかない」
「残念ながらおれはそんな簡単に追いつけないな」
「まあ、いいですよね。こうやって楽しくゲーム出来れば」
「もう少し勝率が上がるように努力しろよ」
海の向こうの彼女を思いながら言う。
「まずは5回に3回はスティルメイトに持ちこめるように頑張ります」
彼女が言う。
「残り2回は?」
おれが聞く。
「勝ちにきまってるじゃないですか」
自信を持って言う・・・・が。
「・・・まあ道のりは遠いな」
「とりあえず紺野先輩に鍛えてもらいます!」
決意新たに力を込めて言う彼女。
「なんで紺野なんだ?」
「えー?だってサークルで一番強いんですよ?」
強い人とやったほうが、早く強くなれる!と力説する。
「だったらおれでいいだろう」
「聖司さんのピアノ、邪魔したくないんです」
と遠慮がちな声。
そう言われると、強く反対できないことを彼女は知っているのだろうか?
まったく彼女には敵わない。
「・・・紺野に勝てるように頑張れよ」
おれはそういうしかなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言い訳・・・・・・・・・・・・・・・・
ゲームに影響されてチェスはじめました。
まだ初心者の初心者・・・ようやく駒が動かせる程度・・・・(汗)
普段、彼女にやられっぱなしの聖司君が唯一勝てるゲームということで。


☆目次☆



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