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パウンドケーキと彼女♪(設楽×主人公)


いつもの昼休み、いつもの音楽準備室へ向かう途中。

「・・・から、はい、嵐君にあげる!」
「ああ、サンキュ、吉野」
階段の踊り場で話す八重と不二山 嵐の二人を見つけた。
賑やかな昼休みのせいで、会話は断片的にしか聞こえず、ただわかるのは
八重が楽しそうに不二山に何かを手渡しているということだけ。
そういえば・・・・と昨日の記憶を探る。

昨日の学校帰り、八重が調理実習でパウンドケーキを作るという話を聞いた。
「 へえ、作れるのか?」
「子供の時、お母さんがオヤツに作ったりしませんでした?」
八重が不思議そうに質問を質問で返した。
パウンドケーキを知らないわけじゃないが、作るのは職人の仕事だと思っていた。
ケーキ等のお菓子は家のパティシエが作るものだと思って疑わなかった。
「普通のケーキよりも簡単です、材料が全部同じ量で作られるので」
「同じ量?」
「小麦粉やバター等の材料を1ポンドずつ使うから”パウンドケーキ”っていうそうです」
「・・・ふーん」
八重は少し得意そうになっていう。
「・・・しかし、1ポンドずつって多くないか?」
一般家庭でそんな大きなパウンドケーキを焼くのか?
「ああ、それは本来そうかもしれませんが、私たちが作るのはその4分の1ぐらいの大きさです」
笑顔で答える。
八重は基本的に料理がうまい・・・・と思う。
もちろん、うちのシェフと比べて・・・というわけじゃないが、変な店(ファストフードや喫茶店)よりは遥かにマシだ。
じゃあ。
「それ、作ったら試食してやる」
「もちろん、聖司さんに持っていきます!」
嬉しそうにいう。
こう素直に反応出来る八重はすごい。
おれは素直に「食べたい」とは言えない。
「お昼休みに届けますから、楽しみにしててください!」
八重は張り切って言っていた。

そこまでの回想を終えてみると、いつもの音楽準備室前に立っていた。
習慣とは恐ろしい、無意識でもちゃんと足はここへ向かう。
我ながらインプットされたロボットのような感覚だ。
「・・・聖司さん?」
「?!」
背後から声をかけられ驚きながら振り向く。
不思議そうな顔の八重が立っていた。
「入らないんですか?」
「・・・あ、ああ、はいる」
我ながら間抜けな答えだ。
考え事してた人物を目の前にしてうろたえる。
席に座って弁当を楽しそうに広げて話す八重にイラつく。
何故・・・原因は分かっている。
さっきの二人のやり取りが頭に残って、こだわっている。
確かに八重はおれにしかやらない、とは言ってない。
八重が作ったものだ、彼女が誰にあげようがおれの知ったことではない。
それでも、だったら何故最初に持ってこない?
昨日、あれほど張り切って「持っていく」と言っていたのに。
・・・自分勝手な考えだ。
八重は・・・彼女は(まだ)おれの所有物じゃない。
「・・・聖司さん、何か怒ってる?」
「・・・」
「聖司さん?」
答えないおれに八重が重ねて声をかける。
そう、彼女の自由におれが勝手に不機嫌になっているだけだ。
「・・・別に」
不機嫌を隠すこともせず答えれば、彼女は食べるのを止めて真正面からおれを見る。
そして
「嘘」
ときっぱり言い切る。
そう、嘘だ、面白くなくて怒っている。
でも、自分で言いたくない。
「聖司さん、何に怒っているんですか?」
「・・・」
「聖司さん」
少し声を強めて八重が言う。
こういう時の彼女の追求からは絶対に逃げられない。
そういうところ・・・・奴に、紺野に似てるよな、と余計なことを考える。
「・・・パウンドケーキ・・・」
小声でいう。
「・・・え?」
「だから!パウンドケーキ、他の奴にもやってただろう」
キーワードで気付けよ!!と怒鳴りたくなる。
こんなことに拘って怒っている器の小ささに羞恥心が刺激される。
「あ」
ここまで言って、ようやく八重の間抜けな声がする。
気恥ずかしくなってよそ見する。
クスクスと小さい笑い声が聞こえて、更に不機嫌度が増していく。
もう、今日はピアノ聴かせてやらん!
「聖司さん」
いつもの柔らかい声で名前を呼ぶ。
この声が好きだ、振り向きたい気持ちと不機嫌が正反対のベクトルを示して動けない。
「遅くなりましたけど、パウンドケーキです」
「・・・・おれは2番目かよ」
「え?違いますよ」
「奴にも・・・不二山にもやっただろう?」
「・・・ああ、違いますよ」
合点が言ったように笑顔で言葉を続ける。
「後輩の嵐君ファンに頼まれたんです、渡してほしいって」
「なんでお前が渡すんだよ」
「恥ずかしくて渡せないそうです」
可愛いですよね〜、と。
「・・・で、これが可愛くない私から聖司さんへ」
鞄からそっと包みを取り出す。
花柄のペーパーに包まれ赤いリボンで留めれていた、手の平サイズのもの。
「味見、してください」
両手に乗せておれに差し出す。
「・・・試食してやる」
わざとぶっきらぼうに答えて受け取る。
今、何か言葉が引っかかったような・・・・。
スライスされたパウンドケーキを一切れつまんで口に入れる。
柑橘系の香り、甘すぎずゴチャゴチャしたドライフルーツもなく、香ばしいナッツが上に飾られているだけのシンプルなケーキ。しっとりとして口当たりもいい。
まさにおれ好みのパウンドケーキだ、美味い。
「・・・ん、美味い」
「良かった!」
上機嫌な笑顔を見せる彼女。
その顔を見て、さっきの言葉の引っかかりの正体に気がついた。
「”可愛いい八重からのケーキ”」
「!!」
そうだ、コイツ”可愛くない”なこと言ったな。
「せ・・聖司さん」
急にオロオロしだす、コイツの百面相は面白い。
「なんでそんなこと言った?」
百面相中の彼女に聞く、だいたい想像がつくが・・・。
「・・・あ、その後輩は・・・」
「後輩は?」
「後輩は・・・後輩から先輩に渡すの恥ずかしいって」
だんだん声が小さくなる八重。
想像通りの答えに思わず彼女の顔を見入る、普段鈍感なぐらい人のテリトリーに入ってくるくせに、そういうところばっかり敏感なんだ。
「いいんじゃないか?お前らしいよ」
「どうせ可愛くない後輩ですよ」
べーっと舌を出してぷぅっと膨れる、まったく可愛くない態度だが、それでも
おれには・・・。
「その顔もまた可愛いな、八重」
「!?」
彼女は真っ赤な顔をして絶句する。
こんな百面相を間近で見れるなら、たまには素直に言ってみるのもいいかもしれない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言い訳・・・・・・・・・・・・・・・・
おやおやおや・・・。
聖司君のヤキモチを書きたかったのに・・・。
なんだか聖司君が彼女を手玉にとって遊んで終わっちゃいまいした・・・。
おかしいな・・・。



☆目次☆



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