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和歌とホトガラ



久しぶりの晴間に、八重さんが縁側で日向ぼっこをしていた。

「やあ、何をしているんだい?」
「あ、太陽電池を充電しているんです」

そう言って、手の平にある長方形の黒い物を見せてくれた。
ギヤマンとも石とも区別のつかない、光沢のある不思議な物体。
見た目ほど重さもない。

「太陽・・・電池?」
「えーっと私の携帯電話を動かす動力源です」
「へえ、それはすごいね。太陽が動力源か」
「そうですね、私も詳しく仕組みはわからないのですが・・・」


これによって携帯電話が動く、という何とも理解の域を超えた
カラクリだ。

「さすがオレの嫁だな!」
「嫁じゃありません!」

背後から晋作が言いながら、現れた。
いつも通り否定する八重さん。
だけど、私は否定が出来なかった。
否定しなかった私を、一瞬、八重さんが見たが・・・。
それでも、否定出来なかった。

それは3日前の夜のこと・・・。
風呂上がり、自室に戻る途中、
縁側から八重さんの声が聞こえてきた。

「由良の門を 渡る舟人かぢを絶え 
 ゆくへも知らぬ 恋のみちかな」


恋和歌だった。
それは手の平に収まっている携帯電話を見ながら、
顔を赤らめて・・・。

私は足音を忍ばせ、携帯電話を見た。
そこにはいつの間に撮ったのか、
晋作のホトガラが・・・!
普段は晋作に反抗しながらも・・・
そう思うと、声をかけることも出来ず、
自室へ戻った。

それ以来、私は自分の気持ちを押し込めるように、
八重さんとの距離を・・・取るようになっていった。

    ***

桂さんの様子がおかしい・・・。
いつもと同じように接してくれているけど、
でも、私にはわかる。
いつも、桂さんを・・・小五郎さんを見てきた
私には・・・。

普段なら高杉さんの冗談に、一緒になって
否定してくれるのに。
最近は肯定こそしないけど、否定もしてくれない。
それどころか、どこか距離を取られている。
私・・何かしでかしたのだろうか?

「・・・・」

えーい!グダグダ考えるのは性に合わない!

「晋作なら今日は会合で遅くなるよ」
「知ってます、私は桂さんに会いに来たんです」

意を決して、桂さんがお仕事をしてるであろう
書院へやってきた。
基本的に書類・文などの書き物は桂さんが担当してる。

「私に?」

とても意外そうな表情の桂さん。

「・・・桂さん、何に怒ってるんですか?」
「え、なんのことだい?」

いつもの笑顔で言う。
でも、この笑顔は違う。
何かを・・隠したり誤魔化す時の顔だ。

「私、桂さんに何かしましたか?」
「別に私は・・・」
「嘘つき!」

気付かないと思ってる・・・。
誤魔化せると思っている。
私はなんだか悲しい気持ちになった。

「・・何か隠してませんか?」
「だから・・・」
「私・・・そんな作り笑顔で誤魔化されません」
「!」

八重さんが真剣な、でも泣きそうな表情で言う。
真っ直ぐに私の目を見て、誤魔化されないと・・・。
ああ、もう、なんでキミには見抜かれてしまうんだろうね。

「・・・別に、本当に何でもないんだ」

でも、このことは・・・。
晋作に嫉妬してるなんてことは・・。

「私わかるんです・・・だって・・」

一息ついて、口を開く。

「私、ずっと桂さんを見てたんだから!」
「え?!」

思わず我が耳を疑う。
私を・・・見ていた?
真っ赤な顔で、涙を瞳の淵に留めて、口をぎゅっと結ぶ。
その姿に、今の言葉が真だと確信する。
しかし・・では、あの和歌の時、晋作のホトガラを
見ていたのは・・・?

「・・八重さんは晋作が・・・」
「私、高杉さんが好きだなんて、一言も言ってないですよ!」

なんで、桂さんには・・・貴方には
私の言葉は・・・気持ちは届かないんだろう?

「・・・」

無言で桂さんが私を見る。
先ほどまでの作り笑顔は、もう消えていた。
なんか・・・死刑宣告されそう。

「・・・」

私はなんか居たたまれず、顔が俯く。
桂さんに私の気持ちを、こんな形で告白するなんて
思ってなかったけど。
でも、言わずには居られなかった・・。
誤解・・されたままは嫌だった。

「・・八重さん・・・」

八重さんの気持ちは、正直嬉しかった。
でも、その前に確認したいことがある。

「・・八重さんが以前、見ていた晋作のホトガラは・・・?」
「ホトガラ?」

不思議そうな顔を上げる。

「・・前に携帯電話で、見ていた晋作のホトガラは・・・?」
「ああ!」

合点がいったかのか、笑顔で「待っててください」と部屋を飛びだす。
すると間もなく、廊下を走る音と共に八重さんが現れた。

「これですか?」

携帯電話を開いて見せてくれる。
そこには、確かにあの時みた晋作のホトガラが・・。

「・・晋作のホトガラだね?」
「確かに高杉さん写ってますけど、私が見てたのは」

そう言ってホトガラの一部を指さす。
そこには・・・

「私が見てたのは、桂さんです」

赤い顔をして、少し小声に言う。

「私・・?」

確かにそこには、晋作の後ろに横を向いた私がいた。
では、あの恋和歌は・・・。

「桂さんの写真撮るチャンスがなくて、でも、偶然、高杉さんと遊んでるときに撮れた、奇跡の一枚なんです!」

満面の笑みで、本当に嬉しそうにいう。

「では、あの時・・・」
「『由良の門を 渡る舟人かぢを絶え 
 ゆくへも知らぬ 恋のみちかな』・・・ですか?」


私が自室以外で携帯を眺めていたのは、あの夜だけ。
ぼやいた後に、桂さんの姿がチラっと見えたのは覚えてたけど、
まさか聞かれてるなんて、思いもしなかった。

「すまない、盗み聞きするつもりはなかったんだ・・・」

バツが悪そうに桂さんが言う。

「もう、その時に声かけてくれたら、ちゃんと説明したのに」
「そうだね、いや、私らしくもなく動揺してたようだ」
「もう一度言います、私は桂さんが・・・小五郎さんが好きです」

いうと同時にふわっと、桂さんに抱きしめられる。
桂さんの羽織から、すごくいい匂いがする・・・。

「駄目だね、女子からそんなことを言わせるようじゃ・・・」
「もう・・・ホント駄目ですよ、桂さん」

「名前で呼んでくれるかい?」
「え?あ・・・小五郎さん」

腕の中の八重が真っ赤な顔をして、名前を口にする。
名前を呼ばれ、胸の中か温かくなる。
それは、とても心地がいい・・。

「私も八重が好きだよ」
「・・・桂さん」

ぱぁっと花が咲いたような笑顔の八重。
愛おしさがこみ上げる。

「二人きりの時は名前で呼んでほしい」
「・・・小五郎さん」
「でも、晋作の前では駄目だよ、私が刺されるからね?」
「あはは、そうかもしれませんね」

小五郎さんの言葉が可笑しくて、
思わず二人で笑いあって、
ふと視線がぶつかる。

「八重・・ずっと傍にいてほしい」
「ずっと小五郎さんの傍にいます」

そして誓いの口づけを交わした。


<end>

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