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コーヒータイム (大久保side)



〜大久保side〜

今晩の接宴が急遽中止になり、
早目に藩邸へ戻ってきた。
近頃は忙しく、八重と話す時間も
あまりとれない。
この時間ならまだ、起きているだろう。
そう思い、八重の部屋の前を通ると、
何か香ばしい香りが漂ってきた。

「小娘、起きてるか?入るぞ」
「はい、どうぞ」

部屋では火鉢の傍で、カップに湯を注いでいた。

「おかえりなさい、今日は早かったんですね」

笑顔で八重が言う。

「予定が変わってな。ところでそれはなんだ?」

八重は私が以前、渡したボーンチャイナのカップに
黒い液体を満たしいた。
熱いのか湯気が立ち上っている。

「これはコーヒーです」
「コーヒー?薬か?」
「違います、お茶とかと同じ飲み物ですよ」
「・・・飲めるのか?」

まるで墨汁のように真っ黒い液体・・・
しかし、漂う香りは悪くない。
訝しげに見ていると、八重は荷物袋から何か取り出した。
それは薄緑色で厚手のカップに似たものだ。

「それは?」
「マグカップというもので、熱いものを飲むのに最適です」

次に四角い透明筒に入った、茶色い粉を
マグカップに入れると、鉄瓶の湯を注ぐ。
先ほど漂っていた香ばしい香りがしてきた。

「どうぞ、熱いです~気をつけてくださいね」
「・・・ふぅむ」

八重から受け取り、まずは匂いを嗅ぐ。
何かを焦がしたような、焙じ茶ともまた違う
香ばしい匂い・・・悪くない。
一口啜ってみる。

「なんと・・これは煤から出来てるのか?」

あまりの苦さに眉間に皺が寄る。

「違います、コーヒー豆という植物から出来てます」

そいうと、先ほどの茶色い粉の入った四角い透明筒を見せる。

「これは・・ギヤマンか?それに色つきのホトガラ」

相変わらず変ったものを持っている。

「ギヤマン・・・えっとガラスです、そこに茶色い豆が
描いてあると思うのですが、それがコーヒー豆です」


確かに茶色い種のようなものが描かれている。
これを粉状にしているのか・・・。
種を炒ってあるようだな。

「・・・大久保さん、極渋茶がお好きなのに
コーヒーはダメですか?」


不思議そうな顔をして八重がいう。

「小娘、渋味と苦味は別物だ」

そう言って、コーヒーを啜る。

「・・・不思議な飲み物だな、苦味の中に少し酸味があるな、
このコーヒーとやらも悪くない」

「え?大久保さんわかるんですか?」

よほど私の感想が意外だったのだろう。
目を丸くて八重が言う。

「お前は私を馬鹿にしてるのか?小娘よりはまともな味覚を持っている」

全く・・・確かに良く分からない飲み物だが、悪くない。
これを八重が日常的に飲んでいた、という事のほうが意外だ。
あんなに甘いもの好きが、こんな苦いものを嗜むとは・・・。
それよりも・・・

「このカップもいいな、手触りはよいし熱さをあまり感じずに持つことが出来る」

黒い液体で満たされた器を見る。
これもギヤマンみたいなものだろうか?
陶器とは違う、なめらかな器肌に光沢のある。
色も竹色でコーヒーが良く引き立っている。

「じゃあ、それ、大久保さん専用にします」
「なに?」

突然八重が言い出した。

「私には大久保さんから頂いた、このカップがあります。
だから、それは大久保さん専用で、たまには一緒にコーヒー飲んでください」


少し顔を赤らめながら、嬉しそうに言う。

「わかった、時々は八重の部屋にコーヒーを飲みに来よう」

八重とのこの時間を作るため、今まで以上に仕事に気合いが
入ったのは言うまでもない・・・。


「小娘、コーヒーを飲みに来たぞ」


<end>

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