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至福の時間 (大久保×娘)


珍しくお仕事から早く帰ってきた大久保さん。
お茶の準備をしようとしたら、すぐに部屋に来い、と呼ばれた。

「八重です、入ります」

上着を脱ぎ、ネクタイを緩める大久保さん。
すっかり洋装が板についてて、カッコいい・・・。

「小娘に土産だ」

ふふん、と得意げに口の端を上げて言う。
文机に置かれた細長い木箱。

「開けてみろ」

言われるままに開ける。
ふんわりと甘い匂いがする、
もうずっと忘れてた匂いだ!

「カステラ!!」
「さすがだな、グラバー卿からの土産だ」
「グラバー卿から?」

先日、大久保さんのお客様でグラバー卿が、
来邸された時に、お茶菓子としてシフォンケーキをお出しした。
その時に、すごく喜ばれていたのは知っていたけど・・。

「小娘の作ったシフォンケーキがいたく気に入ったようでな」

これはその時のお礼だそうで・・。
私がポーっとみていると、

「おい、小娘の時代では眺めているものか?」

「あ、いえ、あまりにも懐かしくて・・・」

私はカステラ大好きで、子供の頃からオヤツに出ていたことを
思い出していた。

「懐かしい・・・か」

大久保さんが少し、考えるようにつぶやいた。

「それでは、これ切り分けてきますね」
「あぁ」

そっと木箱を持って部屋を出る。
御台所で切り分けると、再び大久保さんの部屋に戻る。
もちろん、極渋茶も一緒に。

「お茶入りました」
「・・・先に食べてろ」

お部屋に戻ると、大久保さんは文机で書き物をしていた。
私はお茶とカットしたカステラを、卓袱台に乗せて待った。
しばらくすると、大久保さんが筆を止めて振り返る。

「食べないのか?」

片眉を上げて不思議そうに聞く。

「一緒に食べたいので、待ってます」

そういうと、ふっと笑って「もうすぐ終わる」といった。
その笑顔に・・・今さらだけど、思わず私は顔が
ニヤける。
なんか「仕方ない」って呆れたような、嬉しそうな感情の
入り混じった、複雑な笑顔が好き!
・・・なんて思うのは、”大久保病”も重症かもしれない。

大久保さんは言葉通り、すぐに書き物を終えて、書簡を
クルクル〜と巻くと、文机の脇にある、
南天の蒔絵が描かれた文箱に入れた。
文箱の書簡は、あとで半次郎さんが直接届ける。
その様子をみて、私は部屋を出て
すっかり冷めてしまった、大久保さんのお茶を、
改めて淹れに行く。

「待たせな」
「いいえ、美味しいものは一緒に食べたいです!」

一人で食べてもつまらないし、美味しいものは好きな人と
共有したい。

「じゃあ、頂くことにしよう」
「はい!」

カステラを頬張っていると、珍しく躊躇いがちに
大久保さんが口を開く。

「・・・元の、世界に戻りたいか?」

私には予想もつかない言葉。

「え?」

「・・今はまだ、八重がいたような”平和”な時代ではない」

そこまで言うと、一口お茶を啜る。

「・・お前は・・・何不自由ない時代からここへ来たが・・・」
「大久保さん!」

大久保さんの言葉を遮るように、声を重ねる。
驚いたように、目を見張る大久保さん。

「・・前は・・そう思うこともありました」

そう、来たばかりのころは、確かに早く元に戻りたかった。
でも、今は・・・・!

「今は・・・大久保さんに出会って、私は大久保さんと
一緒に居たいんです」


普段、絶対口に出せないような言葉が・・・
不思議とスラスラ出てくる。

「・・・私がいることは大久保さんには迷惑ですか?」

少し困った顔の大久保さん・・もしかして、私は迷惑・・?
いつも心のどこかで不安に感じてた。
この世界にきて、薩摩藩邸にお世話になることになった
きっかけは私がうっかり新撰組と接触したことが、
原因だし・・・。

自然に顔が俯く。
美味しいカステラ有るのに・・・。

すると急に両頬をつままれて。

「小娘一人ぐらい、私には何の支障もないぞ?」

眉間に皺寄せて、少し怒った表情をして言葉を続ける。

「・・・それとも、私はそんなに甲斐性がなさそうか?」

そう、真剣に言われるから・・・。
私は一瞬、言葉を失う。
両頬をつまんでいる手に、私の手を重ねる。
すると、そっと大久保さんは頬を離した。

「・・・私は大久保さんの傍にずっと居たいです、
居させてもらえますか?」


「確認するまでもない」

いつものニヤリ顔になって言う。

「はい!」
「さっさと食べるぞ、私はそんなに暇じゃないんだ」

そういうと、お茶を啜る。
気のせいか、少し大久保さんの顔が赤い気が・・・・?
でも、きっと
私のほうが真っ赤だ。

大久保さんと二人きりだけの、お茶の時間。
それは私にとって、かけがえのない至福の時間、
二人だけのティータイムが始まる。

<end>



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