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宣戦布告? (慎太と以蔵)


「以蔵くん、珍しいっスね」

風呂上がり部屋へ戻る途中、縁側で以蔵くんが座っていた。

「おう、慎太は風呂上がりか?」

気だるそうに以蔵くんが顔を向ける。
良く見ると傍には半月盆に冷酒が載せられていた。
どうやら寝酒を飲んでたようだが・・・以蔵くんにしては珍しい。
夕餉や宴席でもない限り、あまり酒を飲むことがないのに。

「慎太もどうだ?」

初めからおれの分まで用意されていたかのように、杯が2つある。

「頂くッス」

風呂上がりの火照った体に冷酒が沁み渡る。

「何かあったっスか?」

以蔵くんの盃に酒を注ぎながら聞いてみる。

「ちょっと・・・な・・・」

白黒きっぱり派な以蔵くんには珍しく、歯切れが悪い。
沈黙のまま酒を飲みかわす。
しばらくすると、おもむろに夜空の月を見ながら以蔵くんが

「坊主めくり・・・何を考えた?」
「え?」

予想もしない質問に言葉が詰まる。

「あの1枚を引いた時だ」
「・・・」


『しのぶれど 
 色に出でにけり 
 わが恋(こひ)は
 ものや思ふと 
 人の問ふまで』



以蔵くんが指している1枚の和歌(うた)。

「そうっスねぇ、

『かくとだに
 えやはいぶきの 
 さしも草ぐさ 
 さしも知しらじな
 もゆる思おもひを』


っスかね」

「・・慎太、お前・・」
「以蔵くんはいいっスねぇ」
「何がだ?」
「だって、おれとそんなに年も変わらないのに
以蔵くんは呼び捨てで、おれは”ちゃん”付けっスよ?」


そう、確かに最初に”ちゃん”付けでいいっていったのは自分。

「だ・け・ど!姉さんのことならひかないっスよ!」

自分でも意外なほど、強くきっぱりと言葉が出た。
以蔵くんは何故か呆気にとられている?

「・・・物好きだな、お前」

龍馬並みに物好きだ、と言葉を続ける。

「そうッスか?姉さんは魅力的っスよ」

ますます理解出来ん、と以蔵くんが酒を煽る。

「まあ、それならいいっス、恋敵は少ないほうがいいっスから」
「・・・少ないほうがって、お前と龍馬ぐらいだろう」
「そんなことないっスよ、武市さんだって高杉さんだって」
「待て!そこに何故先生が出てくる?!」
「え?武市さんと龍馬さん、姉さんのことで朝から大ゲンカっスよ?」

いつだったか朝餉を呼びに行く行かないで、
つかみ合いの取っ組み合いをしていた。

「そ、そんなことが・・・」

うなだれる以蔵くん、そうか、あの騒ぎの時、以蔵くん遅れてきたんだっけ?

「強力な恋敵が多いから一人でも減ってくれると助かるっス」

注がれた酒を飲みほして盃を半月盆に置く。

「だから以蔵くん、あとから参戦ってのなしっスからね!」
「おれがなんでアイツのことを争わなきゃならんのだ、
くだらない」


憮然として以蔵くんがいう。

「それじゃ、おやすみなさいっス!」
「・・早く寝ろ」

以蔵くんは面白くなさそうに言う。

それにしても以蔵くん、気付いてないのかなぁ、
姉さん来てから、すごく変わってきてることに。
武市さんが驚くぐらいに、以蔵くんは変わってきている。
以前は武市さんの為だけに生きてる、みたいな雰囲気だったけど
最近は自分のことも周りのことも考えるように
なってきてることに。
それもみな、姉さんの存在あってのこと。
あとから気がついて、参戦してこないといいっスけどねぇ。


<end>


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