※放送開始直後妄想
色々間違ってる
粗雑な印象を受ける部屋だ。奇妙な造形のインテリアとも呼びがたい置物が窮屈そうに押し込められている。足下にはゴミや文房具や紙の類が散乱している。足の踏み場はある、が、川を渡るため突出した石を飛び移るような仕草が要求される程度だ。
唯一の大窓から差し込む斜陽があちこちに陰影を作り、本来は賑やかな配色に寂寥を落とす。
ちぐはぐな色を持った空間だ、と思った。
ひとつ、瞬きを。
机に視線を寄越す。
幼年期の少年らしく荒れた部屋の中で、奇妙に整頓されたその場所が異彩を放っていた。
きちんとケースに仕舞われたカードも、埃一つ被っていない写真立ても。
陽光をまともに受けて影一つないその空間は、ぽっかりと穴が空いたように浮き上がって見えた。
ハンモックをぎしりと揺らす人影に、横柄に声をかけた。
「おいトンマ」
「遊馬だ!何だよ」
途端に跳ね起きてこちらを睨み付ける少年に、机を指さし訪ねた。
「アレは誰だ?」
互いの視線が写真立てへ向かう。
沈黙。
ややあっての、回答。
「俺のとーちゃんとかーちゃんだよ」
「君の両親、ということか?」
「そうだよ」
「何故わざわざ写真を飾っている」
「お前には関係ない」
突き放すような、ぶっきらぼうな口調だった。
だが冷たくはない。拒絶もない。幼いばかりの閉鎖的な声音だ。
そのことに何か、水面に細波が立つような違和感を覚えた。微風が表面を撫でて去っていくような。
「そうか」
だから私も淡泊に返した。
奴はそれきり会話を続ける気もないようで、こちらに背を向けて沈黙を壁にしている。無性に硬貨で傷を付けてやりたくなる壁だった。
「おいトンマ」
「だぁから遊馬だって!」
決まり文句に逐一律儀に大袈裟な反応を返す単純さに感謝を。
「デッキは調整しないのか?」
「…しねーよ」
「君には決闘者としての向上心が欠けているようだな」
「んなこたねぇ!」
「デッキの精錬を怠る者に勝利は訪れない」
「違ぇーよ!…アレは、とーちゃんのデッキだから、俺が勝手にいじっちゃいけないんだよ」
そう、告げた、遊馬が逸らした横顔に幼年期の終わりが差していた。
幼子が心に抱えた暗澹を上手く消化して受け入れていく過程のような、悲しみが磨耗して擦り切れていく過程のような、そんな一つの成長仮定の区切りを見たような気分だ。
細波が大きく、広く波紋を広げていく。
「遊馬」
「だから遊馬だっ、て、え?」
「君は遊馬だろう。違うのか?」
呆けた間抜け面に追い打ちを掛ければ、面白いほど分かりやすい渋面を作る。
そう、奴は、面白い、のだ。
「遊馬」
「何だよ」
「退屈だ。何か芸でもしろ」
「ハァ?」
今度は頓狂な表情へ。
ころころと変わる百面相に、適当な言葉を投げて煽っていく。
細波が押し寄せる。届かぬ堤防へと手を伸ばして。
確かに遊馬の水面に触れた感触がする。