シオライ
暴いて犯して壊して、残酷な仕打ちを施すのはこの世にただ一人でいい。
この手の内から与えられるもの以外を甘受するなど許さない。髪一筋でも他のものに触れさせたら殺してやる。俺を忘れた細胞から焼いてなぶって喰ってやる。
誰もが見とれる艶麗な微笑を端整な顔に乗せて、甘くしっとりと落ち着いた声で、春風のような爽やかで以て、
(どんだけ不気味な告白すんだよ…)
「だから大人しく俺に愛されとけって」
ぽん、と気安い所作で肩に置かれた手を振り払う勇気はない。
世の女が黄色い悲鳴を上げそうな麗姿が、吐息のかかる距離にあっても最早悪態をつく気力さえない。
うららかな午後の執務室で、国政ほっぽって男口説き倒すような国王を持ったこの国の行く末が危ぶまれるが、取りあえずのトコロは、だ。
「お前よく重いって言われない?」
放たれた密室で逃亡劇は始まらない
「いや全然」
「大嘘付け」
「なんだよもー照れるなってば」
「今の俺どっちかってと青ざめてると思うんだけど…」
「色白なとこも可愛いと思うよ」
「もしもーし。俺の言葉通じてますカー?」
「愛の言葉なら言語を越えて通じ合えるものだからな」
「頼むから会話をしてくれ」
「愛してるよライナー」
「あーはいはいもうなんでもいーよ…」
開け放たれた密室に軟禁されても逃亡しようという気は起きない。そもそも本人は囚われているという現実さえ自認出来ない。よって、永遠に誰もその部屋から出ることはない。