アポVSJ&双子とアンチノミー戦の間に書いた奴







 決闘は終結した。

「希望は潰えた。結局最後は絶望しか残らなかったな」

 彼方の光芒に消失しゆくかつての同胞。遥か下方へ墜落し、小さな点のようになって、最後は溢れる光に呑まれて不可視となった。
 その命の還る最期の瞬間を、見届けることは出来なかった。

「お前の朋友は無駄死にだよ。多分、遊星の方にあてられたアンチノミーって奴も」

 十代は無感情に言い捨てて、沈黙したままのパラドックスを見やった。過剰なまでに白々しい光源に晒された横顔にも、同胞の散り際を傍観した瞳にも、滲む色はなかった。少なくとも十代にはそう見えた。

「お前たちは間違ってなかった。だが遊星たちも間違ってはない。それが戦いであり歴史ってもんだ」

「私の死も正しく無駄であったという事か」

 ふん、と自嘲気味に鼻を鳴らし、パラドックスは目を伏せて踵を返した。
 暫く白のDホイールが去った軌跡を見届けていた十代も、ややあってそれに続いた。

「今更後悔するか?ひとり生き残ったこと」

「生きているとも言えない境涯だ。地獄の方がまだマシだとすら思える」

「うっわお前そこまで言うか普通?」

「素直な心境を述べたつもりだったが」

 軽口をたたき合いながらパラドックスに追い付いた十代が横に並び、互いに視線を交わしてふっと微笑み合う。他愛もない遣り取りが日常になるまで、それなりの紆余曲折を要した。が、それも今となっては正しく通過した歴史の一過程でしかなかった気がする。
 足音もなく廃屋のような未来の施設を歩む。
 実体を伴う十代と実体を伴わないパラドックスと、気配はないが影のように寄り添う悪魔(あのふてぶてしい猫と幽霊は置いてきたらしい)。誰の足音も声も現実には空気を震わせることはない。

「ひとつ聞いていいか」

「なんだ」

「遊星が失敗した場合、君が役目を代行することは正しい歴史の道行きだと?」

「別に俺は遊星が失敗した時のためにここにいるわけじゃないぜ」

 いつの間にかパラドックスを追い越しやや前を歩いていた十代が立ち止まり、振り返った。

「俺は久々に面白そうな世界の危機が訪れたから、間近で見たいと思っただけだぜ」

 ニィっと幼い笑みを浮かべて、人智を越えた思考の化け物は邪悪を楽しむ。
 その道理を外れた道楽に慣れたのは、どれほど昔のことだったか。もう思い出すこともない。

「君のそういう邪悪さを正義と錯覚して、何人が君を愛したのやら」

「人聞き悪ィなあ。ラブじゃなくてライクだけだぞ」

「弁解するのはそこでいいのか?」

 はは、と渇いた笑いを零して、一瞬二人の顔から表情が消える。
 深淵は近い。もうそろそろ遊星が最後のモーメントを止める頃だろう。最深部にて待つ人物は何を思い生を全うしているのか。自分たちは彼に対して何を思えばいいのか。
 彼についてパラドックスに説明を求めたことはなかったが、十代も大凡の事情は把握しているつもりだ。

「終わりは近い。さよならの準備は怠るなよ」

「そんなもの、とうの昔に過ぎるほど持った。今は最早それを送る時を待つばかりだ」

「ああ、そうだな」

 互いに目を伏せる。目蓋の裏に広がるのは、深大なる暗渠。無限の宇宙。その暗黒へ呑まれ存在が霧散する青い髪の青年。遊星を闇から押し出して、一人その黒へと潰えた。

「第三のモーメントが停まったな。いよいよアーククレイドルの局面もクライマックスだ」

「ここを終えたらまた不朽の退屈へ逆戻りだな」

「あーそうだな…。ま、そうなったらまた次の危機を待つさ。どうせ世界に平穏なんて訪れやしないんだし」

「ああ、それもそうだな」

 廃虚の果てに蟄居する瓦礫の王。その元へ集結したこの時代の主人公達と、傍観者。
 全ては次代の一過程として。




Melody of Life
いつか帰る場所、すらも喪失して






ひっそりごっずを見守る十代さんとパラ
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