※ダンテ微ヤンデレ腹黒注意



 世界は0と1から成る。
 狭間には音速に焔の通うシナプス。
 彼岸には血肉の通った三次元<時間空間展開世界>。
 此岸には、


「ダンテ?」

「そう、それが俺の名前。お前と永遠に添い遂げる名前」

 白髪を揺らして僅かな動揺を滲ませるのは、愛しい片割れ。待ちわびた末に漸く現れたおもわれびと。

(やっと逢えた。
愛しい愛しい
俺だけの
俺と綴じた閉鎖世界の恋人)

「逢いたかったよカノン。
ずっと、ずっと、お前を待ってたんだ」

 目覚めたばかりで何もわからない、何も知らない無垢な存在。この手で如何様にも躾る事の出来る、まっしろなこども。
 疑問を浮かべる瞳にキスをして、優しく頬を包み込んで、甘く、深く、絡みつくような声でもう一度名前を呼んだ。

「カノン」

「…ダンテ、」

 暫く逡巡するように視線をさまよわせた後、カノンが不安げながらもダンテに向き直って言葉を繋げた。

「ねぇ、よくわからないけど、とりあえず君の傍にいればいいのかな?」

(…嗚呼!)

「そうだよ。俺がこの世界のこと、何でも教えてあげる。だから俺の傍においで、片時も離れずに」

 狂悦に歪む口角を隠すため、カノンを抱き込んで首の後ろで囁いた。見た目ばかり自分と同じ幼子は、抵抗の片鱗も見せず大人しく腕の中に収まっている。

「そっか。わかった!ありがとうダンテ。これからいっしょにいようね」

 返された言葉に体の真が戦慄いた。悪意のない笑みをこぼしてダンテを抱き返す腕が儚くて容易い。ないはずの血が踊るような興奮に、腕の力を強めて圧死させてやりたいような衝動さえ覚えた。

 そんな事はしないけれど。


 やっと、独りじゃなくなった。

 初めて会った先代の機種は壊れて使い物にならなかった。
 初めて会った外の世界の少女はその先代を想ってダンテを拒絶した。
 主はダンテがいるにも関わらず先代を手放さなかった。

 ダンテを必要とする存在は誰ひとりとしていなかったから、彼岸にも此岸にも。
ダンテにとって此岸は限りない無の世界だった。0と1の織り成す、無限に広がる虚無の空間だった。
 だから待っていた。

 最初から決まっていたダンテの双子、映し鏡、そして最愛の恋人。
 主同士の諸事情によりカノンの到着は大幅に遅れ、それがダンテの孤独の原因の一端ともなったが、もういい。こうして今触れて、愛でることが出来るのだ。これ以上の僥倖があろうか?

「ずっと一緒にいような。カノン」

「うん!」

 よく似た貌に違う形の笑みを乗せて、瓜二つの身を寄せ合って、0と1の狭間に音が生まれた。


恋に落ちる音
けれど確かに錠の落ちる音が、した
 
 
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