何度目か何十回目かはたまた何百と繰り返した作業を終えて一息吐いた所だった――何度繰り返しても慣れぬ気持ちの悪い作業だ、否、これを許容したらそれこそ私の精神は彼/彼女に呑まれてしまう。
そう、胸糞の悪い義務を完遂して罪悪感に浸っている現在、
一番見たくない顔が向こうから近寄ってくるなど。
うっすらと笑みを飾る口元と凪いだ瞳。
佳くない兆候だ。
穏やかな様態を取り繕っている時ほど内側の狂態が著しい。
そして案の定、悪魔は邪悪を舌で転がす。
「孕ませて」
事も無げな微笑を湛えて、無垢を粧った視線を絡めて、さらりと揺れる髪に媚態を纏わせてそれらの効果のほどをよく知って、
少年/少女が強請る。
「アンタなら可能だろ?
な、お願いだからさ」
おれにあかちゃんちょうだい?
首に腕を回して耳に唇を寄せて頬を擦りつけ胸と胸を血で染め合わせて、私の怯懦に直接吐息を吹き掛ける。それがとても狡いやり方だと理解っていても私には抗う術がなかった。
何の因果か人間を辞めた彼の体が彼女を兼ねるようになって(彼と一体化した精霊の影響によるものらしいが)、彼がかつて焦がれて望んだ機能を手に入れた。
だが彼が共に生きた証を残したいと切望した想い人は既に亡く、彼女が不要の子種ばかり取り込むものだから、見かねたあの精霊が命じてきたのだ。
―ちょっと要らない虫を駆除してくれないかい?―
彼女の胎内に入り込んだ何処の馬鹿とも知れぬ男の因子を、生命の形を成す前に潰してしまえ、と。その残酷さも無意味さも誰より把握しているパラドックスに、両性具有の悪魔は強いた。
お前が一番十代にとって不要な存在なのだから、と。
―ゴミひろいくらいできるだろ?―
侮蔑を妖艶に添えて嘲笑してきた悪魔の目を思い出す。屈辱的な扱いを甘んじて受け入れたのは、悪魔の言うことが正しかったからだけではない。
「皆ダメなんだよなぁ、やっぱりお前くらい頑丈じゃないとダメかもなぁ」
しなだれかかる腕の重みに何より生命を感じた。人を辞めた彼/彼女も、悪魔も、死して魂だけになったところを拾われた自分も、この魂の内には生命のラインを越えた者しか居ないというのに。
つい今しがたくびり殺した生命の成り損ないが腕の中であえかに喘いだ。
病める薔薇
我が憂い悼ましむ、銀のような声色だった。
壊れた彼には届かない。