※一応微グロ注意
朝、二人の少年の死骸を発見した。
意識が微睡みから引き上げられるのを自覚して、覚醒を覚悟した。この世界で自我を持ち続けるというのは尋常ならざる苦果を伴う。すべては支配者たる少年の恣意に因るものだ。熟く性格が悪い。
だから瞼が開かれて真っ先に飛び込んできた光景が、黒い部屋に赤い血と臓物をぶち撒けて果てた少年二人、などというスプラッタなものだとしても、大して動じはしない。
所詮この惨状も彼の少年が戯れに見せている下らない幻覚の一種だ。そうなのだそうに違いない、
と言い聞かせている途中で吐いた。
喉をせり上がる胃液に耐えきれず、体を折ってその場で暫く嘔吐した。唾液と胃液の混ざり合った汚物が、果てなく黒い床に吸い込まれていく。だらりと垂れた己の髪にも付着して一層の不快感を煽った。衝動的に吐瀉物に濡れた髪を引き千切って捨てる。今度は汚れた手を切り落としてやりたくなった。
「相変わらず潔癖症だな、アンタ」
神経を逆撫でする不快なまでに軽快な声。肩越しに振り仰げば何もかも全ての元凶たる少年が、平素の食えない笑みを浮かべて佇んでいた。
「…じゅ、うだい」
「あんた酷い顔してるぜ」
今にも死にそうだ。
冗談にもならない軽口を叩いて少年は歩を進める。
近寄るなと吐き捨てようとした口からは、言葉の代わりに胃液が溢れた。
蹲って額を擦り付けながら噎せていると、丁寧に背中に触れてくる手があった。緩やかに擦る動きは労るようで、庇護されているような錯覚に陥る。手の主が誰であるかなど、余りに明白だ。
一頻り吐き出して噎せて落ち着いてから、少し体を起こして改めて少年の顔と向き合った。
少年が困ったように眉根を下げる。
「こんな所に迷い込んじゃ駄目じゃないか」
幼い子供に言い聞かせるような口調だった。何処と無く甘さを含んだ、包み込むような慈愛のこもったものだ。
「君が連れてきたのではないのかね」
「まさか。起きたらアンタが居なくて焦ったよ。まあ直ぐ見付かったけどさでもまさか寝惚けてこんな所に迷い込まれるとは思わなかった」
そう言って少年は彼方を見遣った。ふたつの遺骸が並ぶ方を。
「…見られては困るものか」
「いや、全然。ただ俺が見たくないものなだけ」
あっけらかんとした口調に嘘がないことは見て取れた。
だが遺骸を見つめる少年の目は昏く澱んでいる。郷愁と回顧と自己に対する膨大な憎悪が、鳶色の中でたゆたっていた。それらすべてが彼に相応しい色となって。
生理的な緊張と嫌悪で硬直する筋肉を無理矢理捻って、少年と同じ方へ視線を遣る。口内がからからに乾い背中に嫌な汗が張り付いた。それでも目を逸らすことはしなかった。
そこに無惨に横たわる二人の少年を確りと視認した。
一人はこの部屋よりも尚暗い漆黒の服を纏っていた。闇の中でさえ浮き彫りになるような、深い深い黒。飛散した鮮血にさえも染まらぬほどの。
もう一人は、今己の横に立つ少年と似たような服装をしていた。
派手な真っ赤なジャケットが目に痛いコントラストを描き、元は白かったであろうズボンも殆ど赤に染まっている。
どちらも腹から胸にかけて大きく穿たれており、これでもかという程体内で暴虐が尽くされている余程強い怨憎でもなければこうは出来まい。
バケツ一杯のペンキを引っくり返したような大量の血も、体の裏と表を強引に引っくり返したような有り様も、何もかもが余りにグロテスク過ぎて現実から遠かった。
「…アレは、君か」
自然と呟いていた。
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