疑問系にもならないのは確信があったからだ。
 案の定、少年からは首肯が返ってくる。

「ご名答。アンタもわかってきたじゃないか」

 二人して同時に顔を見合わせていた。
 少年がにんまりとわらう。こちらはきっと顔色をなくしていることだろう。

 彼は語る。

「前に話したよな。昔、仲間がいたってこと」

「ああ」

「俺はあいつら皆が大好きだった。皆も俺を好きでいてくれたんだ。自惚れじゃない」

 そう言う口調が自嘲めいていて、彼の本心に鈍い疑惑を持たせた。

「でもな、ちょっとした行き違いがあって俺は皆から嫌われてしまったんだ」

 とても悲しいことだ。
 そう言って少年は瞳を伏せる。横から覗き見る鳶色には傷ついたような光が見えた。

「だから、嫌われてる俺には消えて貰ったんだよ」

 みんなにきらわれてるおれはおれじゃない。そんなのおれじゃない。そんなおれにいきるかちはない。だれもそんなおれはのぞんでない。

「だから、殺したのか、君が」

「違うな。こいつらが自殺した挙げ句に生まれたのが俺だ。そしてこいつらを殺したのは皆の悪意でもある」

 悪意。
 幼い子供を見るも無惨に嬲り殺したのは、彼を仲間と、兄貴と、慕い敬った、少年が今も尊く思う者達だというのか。彼等の怨嗟が、体を引き裂き背骨を砕き内臓を鷲掴み心臓を抉り取ってその内側を蹂躙し尽くしたというのか。

「人間はさ、他人に望まれる自分でないと自分を保てないんだよ。俺は誰よりもあいつらのヒーローでいたかった。だから嫌われ者の俺では自分を保てなかったんだよヒーローは皆に好かれてなきゃいけないから」

 かつん、と暗闇に硬質な靴音を反響させて、少年が踵を返す。

「だからさパラドックス、
あんたも世界を救うヒーローにならないか?」

 俺と一緒に。
 此方の返答など待たずに少年は光に飲まれて消えた。後には虚無だけが取り残される。
 かつて遊城十代と呼ばれ愛されていた少年の骸は、弔われることもなくこの密閉された空間に打ち捨てられている。永遠に。

「君こそ救われたかったのではないかね」

 もう戻れない郷愁のような遺骸を後生大事に閉じ込めて抱え込んで。
 少年の二人を見つめる瞳に憂いと慈しみが混ざり合っていたことに、気付かないとでも思ったのか。

 ぎょろりと見開かれた四つの瞳孔の純粋さだけがこの世界で汚されず愛らしいままだった。


  と ま る
 し ん の ぞ う


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