深夜にふと目が覚めた。
 喉に強烈な渇きを覚えてベッドからもそもそと這い出す。部屋に備え付けの小型の冷蔵庫を漁ってミネラルウォーターを取り出す。コップに注ぎながら時計を確認すれば時刻は4時前で夜明けは遠かった。
 閉め切った厚いカーテンの向こうから車のライトが光の軌跡を映してくる。都会の夜は眠らないのだと実感して急に怖くなった。
 コップの中身を一気に飲み干してベッドへ戻る。
 幸い、隣で寝息をたてる恋人が睡眠を浅くした気配はなかった。その事に安堵すると同時に切なくなる。
 構って欲しい、何て我儘で多忙な身の彼の安眠を妨げるような子供ではなくなった。こうして仕事の合間を縫って二人の時間を確保してくれるだけで十分だ。十分な筈なのだ。
 無防備な寝顔も欲情に濡れた表情もそのギャップを知る権利も、全てを独占して尚満たされないなんて浅ましい。こんなにも醜くて貪婪な自分を、けれど彼は喜んでくれるだろう。
 肌と肌を触れ合わせるようになってから知った、人格者だと何だと言われてきた彼は存外性格が悪いのだと。そんな彼と釣り合うくらいには自分にも性悪な部分があることを今の十代は知っていた。
 恋が人間の一番醜い本性を暴きたてるものだと知らなかった。知りたくもなかった。
 自分をこんなにも惨めな心境に突き落とした張本人は、無垢な寝息をたてて安らいでいる。
 何だか無性に腹立たしくなって、ベッドサイドのテーブルの引き出しを漁った。ホテルに着いて早々車のキーを仕舞った筈だ。出立の際直ぐ取り出せるようにと。
 いつだか気紛れで十代が渡したヒーローのキーホルダーがついた鍵がぽつんと取り残されていた。それを拾い上げて再び冷蔵庫へ向かう。
 掌中にあっさりと収まった感触。普段運転手付きの車にしか乗らない亮が、自分に会いに来る時だけこれに触れる。あの綺麗な指先が丁寧に扱う様を思い出すと、移動中悪戯に十代の体をまさぐった記憶も芋づる式に掘り出されて何だか泣きたくなった。
 逢瀬の為だけに購入された車はこれがなければ動かない。
 冷凍庫にそっと鍵を仕舞う。
 寝付きの浅い恋人の気配に気を配りながら最小限に音を殺す。
 ふとトイレを見遣って、流石にそれは怒られるだろうなと一人苦笑して首を振る。
 
 一仕事終えた気分で再びベッドに入ると、途端に抱きすくめられた。
 
「満足か?」
 
 そんな声と共に強く抱き込んでくる腕にまたしても苦笑しながら、此方も背中に腕を回した。
 耳元で囁かれた声音が勝ち誇っていたような気がするのは、きっと錯覚だ。















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