紙のように薄っぺらい恋愛がしたいと思った。
 
「いいぜ」
 
 軽く首肯して快諾の位を示せば、学園の皇帝は間抜けな表情を晒して硬直した。半開きの口が何か音を捻り出そうと僅かに震えては、結局無言のまま同じ動作を繰り返す。見開かれた瞳には純粋な驚愕が窺える。
 目に見えて狼狽えている彼の様子を可愛いとも可哀想だとも思った。
 
「カイザー?どうかした?」
 
 焦れて声を掛ければ大きく肩を跳ねさせた。大袈裟なリアクションだ、と冷めた心で思った。だが当の本人は耳まで真っ赤に染めて必死の様相だ。漸く本来の機能を果たした声帯は、しかし掠れた心許ない声を絞り出すので精一杯だったらしい。
 
「その、つまり、今の発言は…承諾と見ていいのか…?」
 
「?
しょーだくって?」
 
 皇帝がぐっと言葉に詰まる。意味を解って尚答えに窮する問いを返したのは、ただ嗜虐心が疼いたから。こういう手合いは男女を問わず嗜虐対象にしか見えなくなる。
 
「なぁ、なに」
 
 一歩を詰めてにじり寄れば心底困り果てた顔をされた。そんな被害者みたいな顔をするなよ。思いの丈をぶつけてきたのはあんたなんだから。
 
「…その、お、俺と…恋人になってくれる、と」
 
 俯いてぼそぼそと聞き取りにくい声で喋るな。苛々する。苛々すると余計に痛め付けたくなる。二度と這い上がれないような底辺に突き落として、癒えぬ深手を負わせたくなる。
 殺したいくらいの憎悪を植え付けて塵のように捨ててやりたい。
 
「ああ、そうだぜ」
 
 満面の笑みで相手の手を取り確りと握る。そんな些末な接触にすら一々動揺を見せるなんて、何て情けない男なんだろうか。
 
「宜しくな、カイザー?」
 
 男が瞬巡した後に、幸せそうに柔和な笑みを咲かせた。一度ほどいた手を握り返して、もう一度ほどいてから強く抱き締められた。
 嗚呼、何て下らない男だろうか。

 
 

ペイパーカッターの犯行












 
 
 紙のように薄っぺらい恋愛がしたいと思った。
 
 紙のように薄っぺらい恋愛をして、いい頃合いにびりびりと破り捨ててみたかった。
 ただそれだけだ。
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