ケレス&セレス姉妹とアブカルの馴れ初め←
紅穂くんの話も絡んでくるかもしれない。







ワルクナイ
ワルクナイ
ケレスハナンニモ
―ワルクナイ―

イヂメナイデ
コワイコト
シナイデ
ケレスヲ
ナカマハズレ
ニシナイデ
ヒトリハ
ヤダヨ
サミシイヨ

ダレカ
ダレカ























もう泣かないで、幼子よ。




 彷徨していた。
 崩壊した世界を逃れ、次元の狭間をたゆたい、満身創痍の魂魄を引き摺り、終わりの見えない逃避行を続けた。ただ、この腕の幼子を護る為だけに。
 例えこの魂が擦り切れて朽ちようとも、腕に収まる小さな命だけは決して諦められない、諦めてはいけない。
 何としても、この子だけは――
 ガタリ、と音がして周囲が閃光に包まれる。
 何処かの次元にぶつかったのだと気付いた頃には、その次元へと転落していた。
 
「っく!」

 無意識に幼子を強く抱き込んだ。
 意識も視界も白く飲まれていく。引力と浮遊感が同時に感覚を襲い、全てが遠退いていく。唯一抱き締めた温もりだけが残った。




 頭が重たい。
 鈍痛がどろりとした昏睡から意識を引き起こした。接合されたような瞼を抉じ開ければ、見覚えのない景色。

「…?」

 仄暗い和室の空気、しっとりと木の匂いに包まれた、静謐。やけに身体が重いと思えば、丁寧に分厚い布団に寝かされていた。
 ぐるりと首を回せば、反対側には人の後ろ姿。
 開いた襖の向こうに、涼やかな風に髪を遊ばせて、群青の夜空に浮かぶ月と並ぶように、縁側に座している。此方が起きていることに気付いてはいないが、後ろ姿からも伝わる穏やかな気配に安堵する。
 もぞもぞと布団の中で動けば、ぱさりと乾いた音が生じた。それに気付いた彼の人が、振り替える。

「あ、良かった。気が付かれたんですね」

 柔和な微笑、心底から安堵しきったような、喜色を満面に浮かべた、そんな優しい瞳がひとつきり、此方を見つめた。
 他人からそんな好意的な感情を向けられるのはいつぶりだろう。ずっと――
 
(ずっと?)

 つきん、とした痛みが頭部を襲う。記憶が曖昧に掻き消えていく。

(…あれ?)

 ぼんやりと何らかの違和感を覚えたが、何故だか全く気にならなかった。その事実にさえ何の疑問も抱かなかった。
 
「大丈夫ですか?」

 影が覆い被さってくる。見上げれば先刻の瞳が頭上から視線を降り注がせている。呆けながらその瞳に見入っていると、心配げな様子で再度同じ問い掛けを繰り返した。

「大丈夫、でしょうか?」

「…で、しょう、か」

 言葉の末尾を捉えて拙い発音で鸚鵡返しに呟く。
 その声音は幼い少女のものだった。
 相手が困ったように眉値を下げた。

「…取り敢えず、夕食といたしましょうか」



to be continued..

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