むかし、むかし。

たくさんある世界の中のひとつのうちでの出来事。



その世界には神がいました。

代々人間の中から選ばれている神でした。
皆で話し合って、一番神様にふさわしい人を選んで
神様になってくださいとお願いをするのです。
そうして神様になった人は、たいてい
超能力だとか、魔法だとか、
普通の人では扱えない力を持った人たちばかりでした。
だから神様に選ばれるのです。
選ばれた人は、一生懸命に世界を守るために働きました。
それがとても名誉な仕事だと教えられているからです。



そんな世界のある時代で、
世界中で大飢饉が起こりました。

何年も何年も、
作物がとれず、川は乾上がり、生き物は死に絶え、
そんな地獄の季節が続きました。

その時世界を守っていた神様は、
まだ年若い少女でした。
少女は世界を救おうと必死に働きましたが、
その努力はほとんど報われることはありませんでした。

やがて、世界を守る力のない神様に不満を持つものたちが出てきました。
その人たちは団結して神様を倒す戦争を起こそうとしました。
神様はそんな人たちの説得に赴こうとしました。

けれど、
神様は説得に赴く途中の村で

飢えと乾きに満ちた瞳をした少年に刺されて死にました。

神様はいまわの際に少年の言葉をききました。

「トウサントカアサンヲカエセ」


少年が神様を刺したのは、木を削って作った鋭い箸でした。

少年が両親と囲んだ食卓で使われたものでした。
少年の父は家族全員の食器を木で作っていました。
貧しい一家には食器を買うお金はありませんでした。
それでも暖かったのです。
家族皆でいるだけで。


やがて母が死に、父が死に、少年は一人冬を迎えました。


貧しい少年には、武器を買うお金はありませんでした。
それでも少年は、神様を殺そうと決意したのです。

周りの大人たちが、
この大飢饉は神様のせいだ。
君のお父さんとお母さんを殺したのは神様だ、と教えたからです。

同じような子供はたくさんいました。

神様はその特別な力で、死の間際に少年の記憶を読み取り、全てを知りました。


神様は白い血と赤い涙を流して死んだそうな。



神様が死んで、神様を選んでいた人たちはてんやわんや。
すぐに次の神様を選ばなくては。


けれど神様が殺されて以来、誰も神様の役目を引き受けてくれません。

みんな頭を抱えてお手上げでした。

その時誰かが言いました。


「そうだ、前の神様には妹が一人いたじゃないか。
その子はきっと幼いながらも強い力を持っているときいた。
その子に神様の役目を押し付けよう!」


皆、手を叩いてその発言をした人物を褒め称えました。

そうと決まれば善は急げ、とばかりに、皆は十歳にも満たない女の子を、神様の座に据えました。


女の子は何が何だかさっぱりわかりません。

でも、神様を狙う人たちは女の子を狙って、殺しにやって来ました。
なんどもなんども。

それだけではなく、いく先々で
石を投げられ、ひどい言葉をたくさん言われ、いじめられ、

女の子はふかく傷つきました。


そしてある晩、
暗殺者の一人がとうとう女の子を殺せる距離まで近づいた時でした。

暗殺者の刀が女の子に突き立てられるその寸前、
女の子は凄まじい悲鳴をあげました。

その悲鳴は世界中に響き渡り、
それと同時に天変地異が起きました。

山は火を噴き、地は裂け、風は人も家屋も空へと巻き上げ、炎は消えることなく世界を包み込みました。



神様を守っていた人たちも、殺そうとしていた人たちも、無関係の人たちも、
皆見境なく死んでしまいました。

大飢饉にも生き延びた生命たちも、今度こそ本当に全て死に絶えてしまいました。
世界そのものがひび割れ、
死に見舞われてしまったのです。



焼けつく世界の真ん中で、女の子は一人泣きつづけていました。
泣けば泣くほど世界の崩壊はひどくなりました。

いよいよ女の子にも、死の魔手がのばされようとしたときでした。


どこからともなく優しいひかりがふりそそいで、
女の子を抱きしめ、そのまま世界の外へとさらっていきました。

あたたかく、やわらかなそのひかりは、
まるで天女の羽衣に抱かれているような心地がしたと言います。





こうしてひとつの世界は消え、
ひとりの少女が世界の狭間へと消えました。

その後の彼女がさまざまなであいをへて、成長していくのは


また別のお話。


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