短編

ずるっこ



「治の誕生日プレゼント選ぶんついてきてや」
「は?なんでやねん、その日俺も誕生日やぞ」
「知ってるおめでとう」
「テキトーか」
「100円寿司で良かったら奢るわ」
「任せとけ」

たまたま体育館の点検とかで部活がない侑を捕まえて、治のプレゼントを買いに行ったのは先週の放課後。
学校を出るときにこれまたたまたま会った角名が、「苗字、部活ない日まで侑と一緒とか正気?」とか何とか言って揶揄ってきたけど今の私に頼れるのはこいつしかいないんだから仕方ない。

「マネージャー奢ってくれるらしいで、角名も行く?」
「は!?二人も無理」
「俺はいいや、色々面倒くさいし」

そうして街でああでもないこうでもないって悩んだ末ようやく目当てのものが買えたのは普段ならもう部活も終わってる時間だった。回転寿司のテーブル席で向かい合って食べる侑にはほんと感謝だ。
って言っても侑は何かしらのアドバイスをくれるわけでもなく、一人じゃ決められないから付いてきてもらったっていうのが大きいんだけど。

「悩みすぎやろ…サムの誕生日プレゼントなんか何でもええやん」
「良くないわ、絶対治に喜んでもらいたいもん」
「何でも喜ぶと思うけどなぁ…」
「出たわ、テキトー。やばいこれで良かったかな、不安になってきた…」
「テキトーちゃうねんけどな。まぁいいや、ごっそーさん」
「なぁ侑、やっぱ他のにすれば良かったかな…」
「アホかもう店もしまってるわ、はよ帰るで」
「うう…」

こうして一人で不安になるのを紛らわせてくれるという役目も大きいから、持つべきものは友達だ。


* * *


そんなこんなで迎えた当日。治とは同じクラスで、まぁ普通にたまに話すかなってくらいの友達止まり。部活もマネージャーとしては喋るけど、個人的なこととかはあんまり。でもその関係にやきもきして、今日こそは、せめてちょっとでも進展するキッカケになればと。プレゼントを用意したのに…

「あかん…無理、やっぱあげられへん…」
「だからさっき部員みんなであげたときに渡せば良かったのに」
「みんなで用意したのと別で渡したら、私だけ特別扱いしてんのバレバレやん」
「でも実際用意してるし…そんくらいしてちょうど良いでしょ」
「無理…」
「じゃあどうすんの」
「何が?」

休憩中、ここまで来て勇気が出なくって角名に相談。侑は今日の主役の一人やから絶えずみんなと騒いでるし、私が今頼れるのは角名しかいない。…それで体育館の隅っこで二人並んで喋ってたのに、気付いたら横に治も来てて、驚いて私の肩が大きく跳ねた。

「お、さむ!」
「何が無理なん?」
「…俺侑んとこ行ってくる」
「ちょ、角名!」
「ガンバッテ」

角名はそう言って、非情にも私を置いて侑の方へ行ってしまう。立ち上がる角名を見送った治は、さっき角名が座っていた位置、私の隣に腰を下ろした。

ち、近い…その距離に、ドキドキして心臓がうるさい。無理、治と喋んの緊張する。そんな私の心情なんて勿論知らない治は「で、何が無理なん?」とさっきと同じ質問をした。

「あ、その、えっと…」
「…そんな顔せんとってや、取って食うわけちゃうのに」
「え、あ、うん…」
「まぁ美味しそうやなぁとはいっつも思ってるけど」
「は…えっ!?」
「こんなん言うたらツムに怒られるかな」
「え、…なんで侑」
「?だって付き合うてんねやろ?」
「ええっ!?なんで、付き合ってへんよ!」
「……そうなん?」

あ、その首を傾げるの可愛い。なんて場違いなことを思ったけど、それよりもまず今のはなんだ。誰と誰が付き合ってるって?私と、侑?どうしてそうなったんだ。私が好きなのは、ずっと、治なのに。

「…この前二人で出掛けてへんかった?」
「な、なんで知ってんの…」
「角名が報告してきよった」
「角名…」
「今日は侑とデートらしいよ〜って。先週の放課後」
「…それ、ちゃうねん」
「ん?」
「確かに出掛けたけど、…治の誕生日プレゼント、買いに行くのについてきてもらっただけやし」
「え、さっきくれたやつ?」
「ううん、あれは部員みんなから。そうじゃなくて…私から、治に…」
「…ツムには?」
「あげてへんよ…治にだけ」

そこまで言って、これもうほぼ告白やんって気付いたときには時すでに遅し。ばっちり治に聞こえてたと思うし、私の顔はきっと誤魔化せないくらい赤く染まっているだろう。

どうしよう。頭の中はそればっかりで何もいい案は浮かんでこない。て言うか、治黙ってるし。これ絶対困ってるやつやん。焦ったり悲しくなったり、忙しい奴だなって自分でも思うけど仕方ない。恋する乙女の情緒は不安定なのだ。

すると治は頭が真っ白になっている私の手をゆっくり自分の手に絡ませると、そのまま数回にぎにぎと確かめるように指を動かしている。え、なに。
私はというと、もうキャパオーバー、何がなんだか。黙ってその手を見ていたけど、ちらりと治へ視線をやればバチッと目があってしまって、ひゅって喉が鳴った。

「…ほんま美味しそうやなぁ、自分」
「な、に…」
「めっちゃかわええ」
「へ…」
「放課後、一緒に帰ろうや」
「えっ」
「プレゼント、くれるんやろ?」

そう言った治は、私の顔を見て嬉しそうに笑った。その顔が眩しくて、未だ繋がれたままの手が熱くて。
その後の部活ではボーッとしてて北さんにも怒られるを通り越して心配されたけど、そんな私を見て治がまた笑っていたのは後で角名から聞いた話。


20.10.05.
title by 草臥れた愛で良ければ
宮治 2020's birthday.



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