823本目の花の先(3/7)

「考え事か?」
「貴様には関係の無い事よ」
部屋の窓辺で出会った当初のことを振り返っていた元就は答えた。
とっさに口に出た言葉だったが関係無いだなんてとんでもない。
元凶とも言える相手を見つめるとその顔は今までにない沈痛さを漂わせていた。
「どうした。用があるならば早く申せ」
「ああ、うん……」
それでも言い淀む相手の姿に嫌な予感を隠せない。
先ほどから落ち着かないようにうろうろと部屋の中を徘徊していた様子も実は気になっていた。
「俺、思い出したんだ」
ようやく放たれた元親の言葉に元就は硬直した。
“何を”思い出したのかなど問わずともその様子からわかった。
嫌な予感が当たってしまった。
無表情となった元就を前に元親は言葉を続ける。
「……正確には思い出していたかな」
「なぜ黙っていた」
「言ったらあんたが逃げるかと思って。でも無理だぜ。部屋の隅に札があるだろ?幽霊を閉じ込める結界になるんだと」
先ほどから部屋の壁をぐるぐるとまわっていたのはそのためか。
素早く部屋の中を見回すと確かに四方に札がある。
だが、おそらく効力は無い。
きっと紛い物でも掴まされたのだろう。
言われた通り逃げてやってもよかったが真剣な眼差しが元就を引き留めていた。
それに聞いてみたいとも思っていた。
自分を殺した後、この男が何を想い、何故今こうして無理にでも引き留めようとする真似を犯すのか……。
どの道、元就には行くべきところも無い。
見とめられる元親がいなければ元就は存在しないも同じなのだ。
次なる元親の行動を元就はただ待った。
「毛利、悪かった……!」
床を叩くバンッという大きな音が響いた。
突然の謝罪の言葉と共に床に伏した姿に元就は呆気に取られる。
床に両手と額をつき、正座を組むその姿は土下座に他ならない。
次に来る言葉は責め立てか恨み言かと思っていた元就は完全に虚を突かれた。
「俺があんなことを言ったばかりに……!」
ようやく顔を上げた元親はやはり悲痛な目をしていた。

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