その花の名は――。(4/6)

車に揺られ、海を目指す。
見慣れない町と道筋を行く旅路はなかなかに面白かった。
学生時代は大型のバイクを派手に乗り回していた元親も相応の年になると大半は車での移動となり、その運転も丁寧なものに変わった。
窓を流れて行く景色を眺める。
今日は天候も最高に良く、空では日の輪が輝いていた。
冷房の効いた車内では熱い日差しも関係無い。
揺れる車内にいつの間にか瞼が重くなる。
「寝ちまえよ。着いたら起こしてやるから」
頭を数回、あやすように優しく叩かれる。
言葉に甘え、少し寝入ることにした。
明るい視界とざわめく外の音から意識を切り離して夢の中へと落ちて行く。

ああ、またあの夢だ――。
暗い視界から鮮やかな景色へと変わる。
色とりどりに咲き誇るのは様々な種類の花たち。
空の色はよくわからなかったがそれでも眩しいという感覚が晴れの日を思わせた。
美しい光景。
一面の花の園を歩んでいるはずなのに周囲の花は傷まず、綺麗なままだった。
風で舞う花弁が踊るように横をすり抜ける。
どこか懐かしい風景。
けれどまだ何か足りない――。
そうして思わしげに元就は足下に咲いた花のひとつを摘み取った。
不思議なことに花は抵抗もなくするりと手の中におさまった。
夢の中であるのにその花からは甘い匂いがするように思える。
静けさに包まれた花の景色の中、元就はスッと瞳を閉じた。
鮮やかな花の景色から一転、一面黒色に包まれる。
そうだ、この光景だ――。

何も見えぬ暗闇に意識がハッとなったときには視界が青色に変わった。
広い広い空と、そして波打つ海の景色――。
黒から飛び抜けた青色の眩しさに呆然となる。
「ああ、毛利起きたか?これから船に乗るからな」
銀色が揺れる。青色が瞬いた。
「ほら、降りるぞ」
銀色が離れ、笑う顔が見えた。
呆けていた意識が徐々に覚醒して行く。
車は停まり、港まで辿り着いていた。
そういえばこの先は車が邪魔になるから置いて行くと言われていた。
元親に手を引かれながら夢見心地のままさらに歩く。
「あー、気持ちいいな」
甲板で両腕を広げる元親の銀髪が潮風を受けて暴れる。
陽の光を受けてなびくその髪は綺麗だ。
「船ってぇのはやっぱりいいもんだな!」
振り返った相手が満面の笑みを浮かべる。
笑うその瞳も海のように青々しい。
さきほど見た夢のせいかその明るさが無性に胸を突いた。

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