その花の名は――。(3/6)

そういえば、あの時に口付けは交わしていたか。
振り返った過去に先ほどの誤りを見つけるがそれでも気は晴れなかった。
あれはこちらが強引に迫った結果であり、しかも一度きりの行為だ。
あれ以降も言葉での好意は貰えるが肝心の元親の行動は一向に家族や友人の域を出ない。
「なぁ、毛利」
そう、この呼び名も変わらない。
聞こえてきた声に思わず顰め面になる。
自分はとうの昔に下の名で呼んでいると言うのに元親は依然として元就の名を呼ぼうとはしなかった(ちなみに幼少期の呼び方はただの“お兄ちゃん”である)。
そもそも家族同士の交流もありながら何故、元親は名字の方にこだわるのか。
これも理解出来ないことだった。
「なんぞ」
少々苛立ち気に返すものの、そんなことを気にする奴でもない。
顔を上げる気の無い元就に元親はただ言葉を続けた。
「もうすぐ夏休みだろ?折角だから旅行にでも行かねぇか」
思いがけない元親の提案に本から視線を離した。
「な、行こうぜ」
満面の笑みで誘いかけられる。
これを断る道理などあるわけがない。
短く同意を示すと今度は嬉しそうに笑い、近寄って頭を撫でてくる。
子供をあやすに近い仕草だったが悪い気もしない。
むしろこうして触れられるのは好きだった。
今はまだこのままでも良いか――。
頭に触れる手を取って指を絡める。
握り返された手は夏のせいかいつもより熱かった。

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