その花の名は――。(2/6)

『なぁ、毛利。愛してるぜ』
柔らかく、優しい声が囁く。
薄眼を開けると優しく、そして物憂げな目が自分の顔を見つめていた。
「それはまことか、元親」
思わず寝たふりした目を開け、寝ていたベッドから起き上がると相手はひどく慌てた。
「な、な、なんで……!おまっ、お前、寝てたんじゃねぇのかよ……!」
床が傷むと咄嗟に思うほどの挙動を見せ、元親はのけぞった。
「我を好いていると言うのはまことかと聞いておるのだ」
先ほどの言葉を繰り返す。
尋ねてはいるがそこには確信があった。
慌てるのが何よりの証拠。
それ以前に、元親が元就のことを好いていることはおおよそ見当がついていた。
隠していたつもりだろうがバレバレだ。
相手の行動から自分を好いていることなどとうに気が付いていた。
そして己の気持ちにも。
目を泳がせ、向き合おうとしない元親をじっと見つめる。
我はこやつのような阿呆とは違う。
幼き頃よりずっと傍に居て、両親よりも甘えることの出来るこの男のことを好きだと自覚するようになったのはとても自然な事だった。
誰の傍に居るよりも安心し、隣にいること自体が心地よい。
惚れているからこそ相手の感情にも気が付いた。
むしろこちらの感情に気づかない元親が間抜けなのだ。
無理に関係を形作らなくとも相手は傍にいたし、その心も自分の物だとわかっていたからそれ以上を求めることも無かった。
けれど、こうしてはっきりと告げられると話しは変わってくる。
「言え、元親。貴様は我とどうありたいのだ」
観念したのか目を合わせた相手はそれでも気まずそうな顔をしている。
口を開いたり、何も言わずに閉じたり、まるで酸素不足の金魚の様だ。
「……わかった。もうよい。二度と我に近づくな」
埒の開かない態度に踵を返し、背を向ける。
「おいッ、待ってくれ……!」
声と共に腕が掴まれ、進むはずの足が宙に浮いた。
引き留められた体は当然の如く、バランスを崩し後ろへと倒れ込む。
「痛ってぇ……」
「それは我の台詞ぞ」
二人もろとも床の上に沈んだ。
打ち付けた箇所が痛み、相手を睨むとまた焦った様な表情で口を閉ざす。
引き留めることは予想の内だがいい加減、この態度にも堪忍袋の緒が切れた。
「毛利……その……」
話しかけた相手の言葉を無視し、手を伸ばす。
「――――ッ」
最初に感じた感想は案外味気の無いものだということ。
次に生温かさ。
押し付けただけの唇に、今度は歯を当てると柔らかさが感じられた。
事実を呑み込めていないに違いない相手の口の隙間を探ると慌てたように体が突き放された。
「な、なにしやがんでぇ……!」
息切れした声が言う。
声こそは迫力があるものの、顔に説得力が無い。
うら若き乙女とはほど遠いが頬を染めたその姿はまるで初心な子供だ。
「まだわからぬか」
その鈍さがいっそ憐れになってくる。
「だって、お前……」
真っ直ぐに見つめるとまた視線が泳ぐ。
「貴様が我に懸想していることなどとうに知れているわ」
喉元を掴み、強引に視線を引き寄せる。
「我が気づいて、なぜ貴様は気付かぬ」
告げられた言葉に元親の顔が驚きを映し、そして呆ける。
「貴様は愚かなほどに鈍い」

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