変わらない背中

その場所は忙しい自分の心休まる唯一の場所。


「おい、ジョズ〜!マルコ見なかったか!?」
大声と共に現れたのは可愛い末っ子。
余程走り回ったのか息切れをしている。
「マルコか?いや、見てないな……」
「本当か!?嘘つくなよ!」
勢いよく詰め寄られ目を丸くするがその手が自分を掴む前に別の手がそれを捉えた。
「バカ、ジョズが嘘つくわけないだろ。悪かったな」
「いや……」
そう笑顔を浮かべたのはサッチだ。
よくよく見ればその手には何か怪しげなものが握られていて、二人してまた何か企んでいるだろうことがわかった。
「あっち探してみようぜ」
「一回探したじゃん!」
「また戻ってきてるかもしんねぇだろ?あ、ジョズ。マルコ見かけたら教えてな!」
「ああ……」
突然現れて瞬く間に去って行く二人を見つめながらホッと息を吐く。

「……悪かったねい」
背中にずっと感じていた重みがふっと軽くなる。
「何がだ?」
「嘘つかせちまって」
申し訳なさそうな声が聞こえる。
「嘘はついてないさ。お前は俺の背中にいるんだから姿は見えてないだろう?」
そう軽く笑い声を立てると安心したのか同じように笑う声が聞こえる。
再び背中に重みがかかるのを感じ、しばらくすると寝息が聞こえ始めた。



“このままゆっくり休んでろ”
笑う声は低く落ち着いていて心地がよい。
離していた体を預け直すと柔らかい風が吹いた。
うるさく喚くやつらの声も遠のいて、安心して開けていた目を再び閉じた。
疲れたときの俺の癒しの場所。
この大きな背中はいつだって俺を受け入れてくれる。
辛い時も哀しい時も、自分から進めない時はそちらから引き寄せて。
繰り返し身を預けるうちに今では秘密の指定席だ。
自分はこの落ち着く広い背中が大好きだった。
思えば小さいころから自分はこの背中を追っていたように思う。
覚束ない足で大きな体を追い回す自分とジョズとの関係は周りから見たら完全に雛鳥とその親。
構って欲しくて悪戯をして叱られて。
褒めて欲しくて勉強して笑顔を貰って。
頼りにして欲しくて鍛え上げて喜ばれた。

自分の頭を優しく撫でる大きな手の平は成長した今も自分より大きかったが関係性は少しだけ変わった。
自分より古株で年も上のジョズを超えてやがて自分は一番隊の隊長になった。
ジョズはもとより隊長で同期のサッチも隊長になっていたけれど一番隊の隊長は少し違う。
他の隊のまとめ役としても機能する一番隊の隊長はその実、この船の船長であるオヤジの片腕とも呼べる存在だった。
長年勤めていた隊長が辞任、次の席をお前に任せると言われたときは指名された嬉しさよりもその重責に狼狽え、返答を保留した。
それでも隊長は意思を変えずに後任を俺とし、譲らなかった。
ついには周囲にも知られ、あろうことか全員がそれを受け入れた。
本人一人だけがその事実をまだ受け入れられなかった。
オヤジまでも困らせて承諾を拒否し、子供の用に駄々を捏ね続ける自分を諭したのはやはりジョズだった。
自分が正式に承諾してなくてももはや決定事項。
顔が合えばおめでとうと言われ、遠くからも賞賛のような眼差しを向けられる。
きちんと返答すらしていない自分にそんな声や視線を向けられることが恐ろしく、そしてそのくせ返答を返せないままでいる自分に情けなさを覚えた。
完全にタイミングを失っていた。
みんなの視線を浴びるのが怖く、食堂にすら顔を出さなくなった俺を心配し、毎日部屋まで食事を運んできてくれた。

“おはよう”

“体は大丈夫か?”

“おやすみ”

決して“早く出て来い”“覚悟を決めろ”などと言う言葉は口にせず、当たり前のあいさつと声掛けを繰り返し続けた。
その何でもない言葉の声掛けが嬉しかった。
閉ざされた部屋のドア越しで数日繰り返されたやり取り。
数日後、自分は自ら扉を開けた。
開けた先に見えた久しぶりの顔は変わらない優しい笑顔を見せて何も言わずまたいつものように頭を撫でた。
その時の俺が泣きそうになったとも知らずに。

いざ隊長になってみると忙しさや責任は増したものの何も変わらなかった。
隊長になったところで周りは相変わらず俺にバカなことを仕向けたし、関係もさほど変わらなかった。
若い新入りたちがちょっと恐縮した態度をとるだけ。
無論、ジョズとの関係も変わらなかった。
前と変わらなく他愛ない会話を弾ませて、疲れたときにはその背中を貸してもらって。
結局自分が有らぬ心配をしていただけに過ぎないということを十分に思い知らされた。



好かれているのは十分にわかる。
いや、むしろ誰かを嫌ったりすることなんてあるのだろうか。
ジョズはこの船の誰よりも優しくて、おそらく全ての人に優しい。
それでも、その中でも、自分はこうして背中を貸してもらえるほどに、誰よりもその優しさを与えてもらっているように思う。
でもこの気持ちを言うつもりなんて無かった。
だってこんな風に背中を預けてくれてるのはきっとジョズの中に幼い時の俺の姿があるからだろうと思うから。
ジョズにとって俺はいつまでも小さいマルコで、俺もそうでありたかった。
気持ちを知ったらジョズは残念な顔をするに違いないから。
優しく自分を見つめるその目は兄弟、いやむしろ我が子に向けるようなそんな温かなものだったから。
胸にある気持ちを打ち明けてその眼差しさえも失うくらいだったら気持ちを押し殺すのなんてそんなの何でもなかった。
笑って、細やかに触れてもらえるだけでいい。
本当はもっとずっと一緒にいて、二人だけの話をして、朝も昼も夜も時間を共有したい。
その優しさに存分に埋もれることが出来たのならどんなに幸せだろうか。



「……部屋に運ぶか」
小さな声が聞こえ、体が浮く。
大きな背中から移動して太い腕に抱きあげられた。
「……よく寝てるな」
みだれた髪にあの大きな手の平が触れる。
優しい手つきに口元が緩む。
やはり、言わない。
失いたくない。
起きていることがばれないよう息を潜め。
ばれないほどにそっと腕を握る。
部屋まで運ばれる、わずかな時間の温もりを楽しんだ。


(今はまだもう少しこのままで……)



葛西様よりリクエストいただきました。
ジョズマルです♪

ジョズは私にとって癒し系なのでジョズマルも同じく癒しな感じで書こうとしましたがちょっとシリアスになりました。
イメージと違っていたらスミマセン;
ジョズはきっと小さいマルコの世話係でマルコもジョズに懐いていたのではないかと思います。
はしゃぐサッチやエースとは違い、穏やかにのんびり過ごせる相手。
もし再トライするなら今度こそほのぼので!

お気に召さなかった場合は書き直しも受け付けるので遠慮なくどうぞ(^^)
企画参加ありがとうございました☆


[ 4/4 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -