指先アンインストール(2/4)







好きだと、愛しているといわれなくなって、もうどれくらいの月日が過ぎたのだろう。
あの手が俺の髪をいとおしそうに撫でてくれるのが好きだったけど、もうそれもとうに諦めた。
マルコがこの体に触れてくれるのは、俺を抱く時か殴る時だけ。
大好きだった手は、いつの間にか嫌いになった。

振り上げられれば怖くて肩が竦む。
抵抗すれば殴られた。

俺は一体、マルコの何なんだ?



「…サッチ、大丈夫?最近元気ないよ」


波の音と白い波紋をぼうっと見つめながらぐるぐる考えていた俺に、可愛い弟分が声をかけてくれた。
うん、少し前までは、マルコも俺の事こうやって心配してくれたんだけどな。
それも随分昔の事に思える。


「んー、大丈夫。ちょっと疲れてるだけー」


ははは、と、勤めていつものように笑う。
けれど振り返らないのは、いつもの笑顔を向けられないから。
声だけは偽れても、流石に顔までは作れない。
俺はそんなに器用な人間じゃないんだ。残念ながら。



「…なら、いいんだけどさ」



幸いな事に、エースはおとなしく引き下がってくれた。
珍しく空気を読んでくれたのだろうか。
ありがたい。


「人の心配するくらいなら自分の調書片付けな。またマルコに何か言われてもしらねぇぞ?」


はは、と明るい声で言った言葉に、マヌケにも自分で傷ついた。
嗚呼、馬鹿だな俺。
今その名前、何で自分で言っちゃうかな。

危うく泣きそうになるのを必死でこらえた。
今此処で泣くのは面倒だ。いろいろと。


「…うん、そうするよ」


たっぷりの間を空けて、エースは少し沈んだ声でそう言った。
後ろでゆっくりとエースが遠ざかっていく音がする。
けれど俺は振り返れない。


「あのさぁ、サッチ」
「…ん?」
「辛くなったら、言ってもいいんだからな」


言い逃げるように、エースはそう言い残して走り去っていった。
俺が振り返る頃には、エースの後ろ姿は曲がり角の向こうに消えてしまって、呼び止めることも叶わない。
なんてこった、弟分にまで心配されて、情けない。


ぱしん、と、両手で自分の頬を叩く。
弱音を吐くのはもう終わり。
今からやることが沢山あるのだ。
仕事は仕事。
俺がこんなんでは、隊員達に示しがつかない。


「大丈夫、まだ俺は頑張れるさ」


自分に言い聞かせるように、水面にゆれる顔に言う。
なんてったって、天下の白ひげ海賊団、四番隊隊長なのだ。
俺なら大丈夫。きっと、大丈夫。




言い聞かせるように胸に刻んだ言葉は、もう何度目かわからないのだけれど。

それを考えないようにして、俺は調理室のドアを開いた。








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