聞いて欲しいこと

伝えたいのに

言葉は渦を巻くばかり




初めて会ったときから何か心を引かれていた。触れ合うにつれて想いは肥大し、重く大きな蕾ができた。

「好き、だ…」

その一言で開いた花弁は美しく咲いたのだった。



あれから数週間たった。けれど、付き合う前と何ら変わりはしない。原因は俺にあるだろう。

「サッチ、」
「!!マルコ…」
「あのよ、「わりぃ、部下に呼ばれてんだ、またあとでな」………」

話しかけられれば、何か口実を作ってその場を去ろうとする。避けているつもりはないのだけれど、向こうからしたらいい気分ではないはずだ。どうにかしたいのにどうにもできない。

触りたい。そうは思うのだけれど、あと一歩のところで伸ばした手は止まってしまう。初めてのことに戸惑っているというのもあるが。俺は男で相手も男。所謂、世間一般にはあまりよろしく思われていない同性愛。何もかも自由な海賊が世間の目を気にするなんてのは甚だ可笑しいのだけれど。

それでも、思っちまうだろ?
大の男が甘えるのが可愛いわけないんだ。
抱きついたりキスしたいと。自分が思う以上に身体はアイツを求める。でも、拒絶が怖いから。気持ち悪いだろうから。黙っていることしかできないんだ。

そんなことを繰り返しているうちに、いつしか二人とも会話さえしなくなってしまった。俺はもとからマルコを避けていたし、マルコも俺を避け始めた。
この間、たまたま目が合ったとき。一瞬だけ目が合ったとき。その鋭く細められた目は、咎めるように呆れるように色を染めていた。

わかってしまった。
告白しといて、それ以上を求められない俺に飽き飽きしたんだと。途端、胸が苦しくなり目頭が熱くなる。
情けないほどに臆病で、弱い自分。勝手に悩んで勝手に一人になって勝手に泣きそうになっている。吐き出してしまえば、きっと上手くいくだろうに。上手くいかなかったときのことばかり考えて。不安ばかり残して。佇むしか他に術はなくて。

(このまま、自然消滅、か……)

恋い焦がれた相手に想いを打ち明けて、それで心は軽くなったと思った。でも、それは違った。縛り付ける鎖は重みを増して俺にのし掛かる。
こんなことになるなら、告白なんてしなければよかった。
相手を見つめ続ける毎日でも構わない。楽しく、笑って話せたあの日に戻りたい。

「マルコ……」

溜まった想いと共に涙が頬を伝った。















「ほんっとに、馬鹿だねぃ。お前さんは」

え?
掛けられた言葉に驚いて顔を上げれば愛しい姿。

「あーあー…ぶっさいくな顔して…」

はぁとため息一つ漏らして膝を着く。添えられた手は溢れる雫を拭い、寄せられた唇は目尻を吸い上げる。空いた片手は腰に回され俺はマルコの胸の中へ。きつく、苦しいくらいの包容に身体が強張る。

「マルコっ、」
「これでもう逃げられないだろぃ?」

とくとくと心地いい鼓動が緊張を解す。伝わる温もりに涙は止まっていた。

「サッチ、好きだよぃ」
「!!!……」
「お前は?俺が嫌いになったのかぃ?」
「っ!!違う!!」

好きで好きで。どうしよもないくらいに愛しているから。こんなに辛い思いをしているのに。

「じゃあ、何で避ける?」
「………」
「サッチ?」

黙りこむ俺に口を閉ざすことは許さないとでも言うように顎を上げられた。射抜く青色から目を反らしたいけれど敵わない。

「俺はっ」
「…………」
「俺は……」
「…………」

喉奥まで迫った気持ちは、それでも心の蟠りに塞き止められてしまって外に出てこない。
その間もマルコは俺の背を擦り宥めるようにあやす。
待ってくれている。俺の言葉を待ってくれている。
彼はこんなにも優しいのに、俺は何を怖がっていたのだろう。

「ごめん……俺、マルコに嫌がられると思って…」
「何を」
「男にくっつかれたら嫌だろ?」
「そりゃ、お前以外の男だったらねぃ」
「………へ?」
「あのな、嫌だったら付き合うなんて言うわけないだろぃ。馬鹿だねぃ」

ちょ、さっきから馬鹿呼ばわりしてんなよ。失礼な。

「俺だって悩んだんだ。なんで避けられてんのかわかんなかったしな」
「…………ごめん」
「ま、どうせお前のことだから、くだんねぇこと考えてんだろうなとは踏んでたけどなぃ」
「んなっ!!くだんねぇって!!」
「長いことお前のこと見てきたからねぃ。思考とか行動が読めちまうんだ」

俺のことを見てきた?

「何もサッチだけが片想いしてたわけじゃねぇんだよぃ」

そうなの、か…?
意外な事実に驚いた。

「告白を先取られたのはいただけなかったけどな」

少し悔しそうにしているのが可笑しくて肩を震わせてしまう。
あんなに触れるのに戸惑っていたのに、今は離れたくないほどに愛しくて。腕を回して抱き着く。

「サッチ、」
「マルコ、」

もう怖いものなんて何もない。あるのは溢れんばかりの愛だけ。


呼吸さえ停まるような愛を貴方に


(愛してるよぃ)
(俺も、好きだ)


(何、あのうざっプル)
(そういうな)
(やっとマルコも落ち着くな)
(ったく、サッチと上手くいかないからって此方にあたるのは勘弁してほしかったね)
(おい、聞こえてんぞ)


→オマケのマルコside

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