嫉妬に迷惑
どこにでもあるような夕飯後の穏やかな団欒。若干酔い気味の母もいるがそれはたびたびの事なので俺も父さんも気にしない。TVはバラエティー番組に変わっていて水着を着た俺と同い年くらいの女の人が水中騎馬戦やらアイドル運動会が始まろうとしていた。ふと俺が発した言葉でちょっとした事件が起こるなんて思いもしなかった。
「父さん。どの子が好み?」
「左から3番目かな」
その瞬間酔っ払った母さんが音を立てながら椅子から勢いよく立ちあがった。
「私、出て行きます」
そう言って泊まりなどに必要な物をまとめて出ていってしまった。ポカンとする俺。隣の父さんを見ると追いかける振りもない。しか し何で急にあんな事を。
「父さん。原因わからないの?」
「……なんとなく」
聞けばさっきの会話が原因らしい。つまりTVに映っていた左から3番目の人に嫉妬したという事だ。俺が産まれる前にも一回こういう事があったらしい。説明をしてくれた父さんは携帯片手にどこかに電話をし始めた。母さんが出て行くとなったら弟さんのとこ。つまり俺の叔父に電話をしているのだろう。連絡をし終えた父さんは明日には帰ってくるように伝えたから心配するなと言った。
「でも普段母さんそんな事気にしないよな」
「酔ってたからな。俺も迂闊だった」
父さんはアイドル運動会から別のチャンネルに変えた。追いかけなくていいの? と聞いたら頑固だから俺が何を言っても無駄だからな。跡部にまかせるよと言ってTVに向き直った。
「亮に振られたー」
「わかったからよ。さっき連絡あって明日には帰って来いよだとよ。俺はまだ仕事あるから静かにしてろよ」
そう言ったのにもかかわらずわーわー騒ぐ姉さん。昔からこういう事はあったから慣れているといえば慣れている。それにしても自分の姉の事だがよく宍戸は結婚する気になったものだ。
「やっぱ若い子の方がいいんだ。亮なんかキャバクラにでも行って遊んでればいいじゃん」
「あいつがキャバクラ行くようなヤツかよ。許してやれよ」
「絶対許さない。何よ。追いかけても来ないし」
とりあえず一段落した仕事を片づけて水を姉さんに持っていく。こうなった姉さんを説得する方が無理な話だと思いながらほら、飲んで。と水を渡す。素直に水を口にする姉さんを横目にそんな事を思った。
「あれ? 私なんでここにいるの?」
嫉妬に迷惑
(覚えてねーのかよ)
(うん。そうとう酔っ払ってたのかな)
(……迎えに来いと連絡しておくぞ)
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宍戸さんが可哀想なだけ