教卓まで1cm

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「告白……だったんだよな」

そう小さく呟いた。家に帰ってお風呂に入って仕事のために出した目の前にあるプリントにも手がつかない。……そうだ、先輩に連絡……。携帯を手に取るもなかなか通話ボタンが押せない。画面は先輩の電話番号を映したまま。

「でも、両想いだったという事だ」

何でこんなにも悩まなくてはいけないんだ。付き合った事が無いガキでもあるまいし。考え直し通話ボタンを押した。コール音が鳴る。もしもし。あ? 日吉か? 出たのは、跡部さんだった。

「あっはい。そうです。あれ? 先輩は?」
「寝てる。携帯鳴ってると思ってみたらお前だったからな。元気か?」
「はい。元気です」

なぜ、跡部さんが出るんだ。相談が出来ないじゃないか。

「で、何の用だったんだ?」
「あ……仕事の話しで」
「そうか「ちょっと! 何勝手に出てるの? 誰から?」
「日吉からだ」
「日吉? もしもし? 電話変わったよ?」
「あっ先輩どうも」
「……もしかして何か進展がありましたかー?」

なんとなくだけど跡部さんが後ろでニヤついている様な気がした。でももうそんなのは構っていられないのだ。

「……向こうから告白されました」
「はい。もう答えは出たね。お幸せに」

一方的に電話を切られた。なんなんだ。答えは出た? お幸せに……? それは付き合えって事なのか? でも、それがきっと答えなのだろう。


卒業式の予行練習の日俺は、美鈴を捕まえて、卒業式が終わった後、学校裏で待っていると伝えた。


卒業式当日。無事に卒業生を送り終わり学校裏で車を止めて待つ。いくらなんでも見つかるのはまずいからな。来てくれるのか……。そんな心配をよそに美鈴は現れた。手を振るとこっちに気づいて車に乗るよう合図をした。助手席に座った。

「時間あるか?」
「はい。大丈夫です」
「友達と遊びに行くとかは?」
「先生がそんな事言っていいんですか?」

美鈴が小さく笑った。いや、ないならいい。適当に車を走らして少し広い公園の駐車場に車を停めた。静かな車内。ずっと無言だった美鈴から口を開いた。

「先生。何ですか……?」
「あの時の返事をだな」
「返事……?」

ああ。返事。あの最後に勉強教えた日美鈴告白したろ? ……忘れてください。忘れられるか。

「俺も美鈴が好きだ」

あの時とは逆。美鈴が放心状態だ。

「それ本当ですか?」
「教師が生徒にこんな嘘ついてどうするんだ」
「……ありがとうございます。先生」
「もう、先生じゃないだろ? 若って呼べよ」


遠かった教卓と机の差は0cm。


(うい)
(若、さん)
(今はそれでもいいか)

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