教卓まで2cm

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3学期が始まった。けど3年生はもう本当にあと少しで卒業というところまで来てしまった。職員室で、ボーッと今後の予定を見ていると3年生の先生方がチラホラと戻ってきている。予定表に目を向けると今日3年生は4時間授業らしい。そして明日からテストだ。そういえば俺もそろそろテスト対策のプリントを準備し始めないとな。そう思いファイルの中のプリントを見てみるが肝心のプリントがない。

「教卓の中だ」

そう小さく呟いて俺は席を立って自分の教室に忘れていたプリントを取りに行った。3年生が出払っていつもより静かな校内。ところどころ授業をしている先生の声しか聞こえない。階段を上がってる時だった。横を通ったのは美鈴だった。

「美鈴」
「先生」

とっさに声をかけてしまった。美鈴を見ると手にはプリント。階段を降りていくということはそのプリントは明日提出と言う事なのか。美鈴の今までの事を思い返しながらそう思った。美鈴に話を続けようと声を再びかける。でも、どこか様子がおかしい。目を合わせてくれないという感じだろうか。

「そのプリント明日提出なのか?」
「よくわかりましたね」

なんとなくだけどな。何の教科だ? 古典です。少しチラッとプリントを見ると真っ白。

「真っ白だな」
「いいじゃないですか。前よりはマシですよ。提出日に出してますから」

俺にやっと目を合わせてあの時と同じようにめんどくさそうな答えが返って来る。なんだか懐かしい。

「教えようか。別に5・6時間目授業無いしな」
「別にいいですよ。」
「一人で解けるのか?」

そのまま黙ってしまった美鈴。きっとここで帰してしまうともうこの先しゃべることはないだろう。先輩は焦るなと言っていたが俺にだって限界がある。

「今、何組だ?」
「4組です」
「わかった。教室の鍵持ってくるから教室の前で待ってろ」

わかりました。昇降口に鞄置きっぱなしなので取りに行ってから来ますと言って階段を降りて行った。俺は一旦クラスに行き、プリントを取りに、そして一応許可を取って4組の鍵を持ち出した。

4組の前に行くとさっきは持っていなかった鞄を持っている美鈴。鍵を開けて適当に座って勉強を開始した。しかし、前と比べてすらすらと解いていく美鈴。別に教えてもらう必要などないというくらい。

「出来るようになったんだな」
「古典だけ先生にしごかれたんで、成績がいいんです」

とりあえず出来るとこだけ終わって、出来ていないところは教科書を使って解説。解説して、直している間パラパラと教科書をめくっていると前に教えていた時のメモが残っていた。消してないのか。先生できました。その声でざっとプリントを見ると全部出来ていた。大丈夫だ。そう言って顔をあげると美鈴の顔が近くにある。

「先生眼鏡じゃないんですね」
「ああ、まだ自分のクラスのHRが残ってるからな」
「……私、先生の眼鏡姿好きですよ」

好き……。その言葉にドキッとした。もう今度から眼鏡でいいかもしれないなとまで考えてしまうほど俺は美鈴の事を思っているのかもしれない。そうか、ありがとうな。そういっぱいいっぱいな気持ちで言って美鈴を見ると下を向いてしまっている。どうした? と聞こうとした時だった。

「……私……先生自身が好きです。日吉先生が好きです」

今、何て。俺の事が好き……? 美鈴を見ると真っすぐ俺の事を見ている。しかしすぐにヘラッと笑った。

「今言った事は忘れて下さい。先生今までありがとうございました」

そう言ってさっさと荷物をまとめて出て行ってしまった。教室に残されたのは何も言えずに放心してしまった俺だった。

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