3.六時間目の相談
「どうもです」
保健室に入って来たのは体調が悪い生徒……ではなく国語教師のういだった。跡部の彼女の。
「また愚痴でもこぼしに来たんかいな」
とりあえずコーヒー淹れるなと言いながら立ち上がる。うんとか細い声が聞こえる。コーヒーが保健室で淹れられるのはここに籠る事が多い俺の単なる我儘。横目にういを見ると出欠確認が書いてある紙を見ている。目が追っているのは“あの子”の事なんだろう。話しには出した事はないんやけど、付き合いが長い俺達。空気感でなんとなくわかってしまう。跡部が浮気しとる事にきっと感づいている。跡部からあの子の事は聞いとるはずやしな。
「休んでる」
そう溜息混じりに呟いたうい。自分の学校の生徒が自分の彼氏と浮気。どんな気持ちになるんやろうか。コーヒーをスティックシュガーと一緒に持っていく。俺はブラックで。黙っていると何かしゃべってよと言われた。
「それは本題をしゃべれ。言う事かいな」
なんとなく。そうなんとなく。しゃべる話題がここまで来ると何も見つからないから。しかし何の事? と返されてしまう。もうこの話しをするしかないやろと出欠確認の紙の名前を指す。
「気づいてるんやろ?」
「やっぱ若い子の方がいいのかな? 景吾、今日は出張って言ってた」
「アイツももう少し上手くやらんと。ういも可哀想やな」
最近跡部には会ってないけど、この様子やとそろそろヤバイんちゃうんかな。どうしたらいいんだろうと机に突っ伏しているうい。
「俺に乗り換えるか?」
「誰があんたなんかに。忍足もそろそろ女癖悪いの直したら?」
「なんや話しそれてるんやけど」
まぁ、いいや。飲みに行こう。飲みにと方向転換は早いもので。日吉も誘おう。彼女の話しいろいろ聞き出してやる。日吉彼女出来たんかい。呑みに行く場所を検索し始めている顔は笑っていてあんまり心配する必要はないのかもとも思えた。
六時間目の相談
(結局、この件はどないすんねん)
(景吾が何か言ってくるまで黙ってるよ)
「ういさん、酔いつぶれてますね」
「跡部の浮気が発覚してん。酷い話しや」
「強い人ですね。それでも泣きそうでしたけど。……帰り忍足さん送ってやってくださいね」
「わかったわ」
(それにしても、日吉の彼女気になるな。写メとかないん)
(無いです。あったとしても見せないです会わせるなんてもっての他です)
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