1.笑った顔が綺麗で

「何で俺に押しつけるんだよ」
「すみません。では、よろしくお願いします」

秘書が出て行って取り残された俺と彼女。現在高校1年で、数日前親を亡くしたらしい。俺の親の親友の子どもで面倒を見ると引き取ったそうだ。確かに家の大きさを考えればそれほど苦ではない。しかしなぜ俺に押しつける。本当に昔から何を考えているのかわからない人達だ。学校は忍足が校医をしている高校に決まり、部屋はマンションの一室をとってあるそうだ。

「家まで送ってやるから着いて来い」

さっきから何もしゃべらない美鈴うい。まだ親が亡くなって数日。受け入れられないのはよくわかるが……。そう思いながら車を走らせる。

「あのな、気持ちはわかるけど挨拶くらいちゃんと出来るようにしろよ」
「……別にどうとも思っていないです。全部どうでもいいんです」

美鈴。跡部と並ぶくらいの財閥だ。

「それと、昔から親といた記憶なんてないですからあまりいつもと変わらないです」

外の景色を見ながら淡々と話すうい。財閥の中じゃよく聞く話しだが俺は親とはそこそこ顔を合わせていて、それなりに家族愛というものは満たされていた。俺とはかなり真逆な家庭環境だったのだろう。それ以降会話はなくマンションの前に着いた。車を降り部屋の鍵や軽くセキュリティーの説明などしながら部屋に向かう。部屋につきドアを開けると聞いていた通りすぐ生活出来る状態になっていた。

「全部取り付けてあるから好きに使え。高校はここだ」

高校のパンフレットと秘書の名刺を一緒に渡す。俺は面倒が見れるほど暇ではない。困ったことがあったらここにかけろというとさっきから変わらない声色でわかりましたと返って来た。たまに顔を出すと言い俺は部屋を出た。



ざわざわしている放課後の校内。その中を1人帰る。もうずっと全てがどうでもいい。親は亡くなったけど企業自体は無くならない。私が上に立てるまで誰が上に立つか。私に媚びればいいと思っているのか気持ち悪いくらい笑顔の大人たち。嫌気がさす。私が継ぐ気がないと漏らしたらどうなるのかな。そんなことを考えながら新しい家へと黙々と歩く。跡部さんが用意してくれた部屋は学校から歩いて5分ほど。部屋は1人暮らしには広すぎるほどだ。夕飯はどうしようかとドアを開けると電気がついている。あの人かとリビングのドアを開けると私の予想通り跡部さんがいた。

「おかえり」
「なんでくつろいでるんですか」
「たまたま時間が空いたから来てみたんだ。一応俺が面倒見ることになってるんでな」
「それにしても勝手に部屋に入るのはどうかと思いますが」

とりあえず着替えたかったので、冷蔵庫の中の飲み物勝手にどうぞと一言伝えて、寝室に着替えに行く。どうもあの人の俺様気質は昔かららしい。最近よく行く学校の保健室の忍足先生が言っていた。どうやら学生時代からの付き合いだそうだ。



「さっそくかいな」
「何がですか?」
「君やろ? 跡部家が引き取ったいう」
「跡部さんのこと知ってるんですか?」
「昔からの友人や」

ねっとりとした関西弁の先生。私の顔を見て一通り話すと体調悪いん? と先生らしい事を聞いて来た。眠いから寝かせてもらおうと。ダメで元々な感じで来たものの右端のベッド使いとあっさりした答えが返って来た。ベッドに寝転がり微妙な心地の掛け布団を掛け、カーテンを閉める。この際だから跡部さんのことでも聞いておくかな。

「跡部さんってどんな人ですか?」

授業中の静かな校舎。保健室は教室とは離れた場所にあるからさらに静けさが増している。さっきから先生が読んでいる書類かなんかのめくる音しか聞こえてこない。椅子に背もたれした音が聞こえてそうやなと忍足先生はしゃべりだした。

「とにかく俺様やな」
「なんとなくそうなんじゃないかとは」
「やけど、努力はもの凄くしとったヤツやで。200人もいるテニス部の部長やったんやけどなみんな跡部についていく思っとったわ」

カリスマ性があるという事だろうか。だから不法侵入紛いな事をされても何とも思わないのかな。まぁ、あそこは跡部さんがオーナーなのもあるけど。

「学校には慣れそうか?」
「保健室は好きになれそうです」

自分でわかるほど苦笑いをしながらそう答えた。



「そういえば保健室の先生。忍足先生と古い付き合いなんですよね?」

着替え終わったは私はリビングに戻ると自分の分の飲み物をマグに注ぎソファーに座る。跡部さんも自分で飲み物を出してくれたようで。

「忍足に会ったのか」
「はい。跡部さんの昔の話しとか聞かせてもらいました」

聞いた感想なんて私と跡部さんは環境が違い過ぎるということくらいだが。私の全てどうでもいいって考え方はあり得ないですよねと笑うと跡部さんは黙ってしまった。呆れてるのかな。普通そうだよねとマグの中のものを一口飲む。

「あり得ない……な。でもそういう考え方もあるよなって少し興味はわいたけどな」

どこにどう興味がわくのかよくわからない。さすが跡部様(昔そう女子から呼ばれていたらしい)。思考回路が複雑そうだ。ふと机の上を見るとマグが2つ並んでいるだけ。お茶菓子くらい必要だろう。お茶菓子出しますねと立つが生憎私の手作りクッキーしかない。跡部さんの口に合うだろうか。とりあえずお皿に盛り付け持っていく。手作りなんですけどよかったらと出すとなかなか可愛い趣味があるんだなと笑われた。

「美味しくなかったらハッキリ言ってください」

一口食べた跡部さんはうまいなと笑った。



笑った顔が綺麗で
(今、少しドキッてしたろ)
(してないです)
(……面白いヤツ)





戻る



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -