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扉の飾りが音を立てた。いらっしゃいませと顔を上げると高杉さんだ。思わず時計を見ると8時。

「今日は早いですね」
「だいぶ落ち着いたからな。ゆっくり飲みにきた。ウイスキー頼む」

はいと返事をしてグラスに氷を入れ、ウイスキーを注いでカウンターにウイスキーですと置く。高杉さんは店内を見回して人いねーなと一言。

「平日の時間はいつもヒマですよー」
「そういや、銀時もいねーな」
「裏にいますよ。しばらく表には出てこれないと思います」

お店を経営するためには、まだ私がわからないような書類がたくさん必要で。その処理を溜め込んでいたのが発覚したので、今週暇な時はずっと銀さんは裏にいる。

「ういも大変だな」
「もう慣れましたよ」
「そうか。大学はどうだ? 来年就職だもんなぁ」
「ぼちぼちですかね。就職出来るんですかねぇ。私」
「やる気ないな。俺の会社新卒募集してるぞ」
「残業多そうなんで嫌です」

ああ、もう何も考えたくない。高杉さんと同じところで働けて、後輩とかになれたらなんて憧れはあるけど、絶対に忙しいのは目に見えてるから勘弁だ。ふとグラスを見るともう中身は無くて同じのと注文を受ける。カウンターにウイスキーを出すとありがとと返ってくる。

「高杉さんってモテそうですよね」
「何だよ。いきなり。まぁ、モテるけど」

そういうことサラッと言いますか。かっこよくて似合っちゃうから憎い。高杉さんに好きだと言われて断る人っているのかな。

「うい、彼氏いるのか?」
「いたらこんなにバイトしてませんよ」
「だよなー」
「高杉さんは彼女いるんですか?」
「いたら彼女の元に直帰だよ」

タバコを咥えて火をつける。傍らにはウイスキー。煙をゆっくりと吐き出すその仕草に思わず見惚れてしまう。どれだけ絵になるんだか。ふと視線を上げた高杉さんと視線が合う。顔が一気に熱くなった。赤くなってないよね。照明の下だから顔がハッキリ見えてしまうのでそんな事を気にしてしまい、なんとなく視線を反らす。

「独り身同士どっか出かけるか? 俺有給消化しろって言われて来週の月曜休みなんだよ。ここも定休日だしバイトないだろ? 大学は?」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり何言ってるんですか!」

何そんな焦ってんだよと笑った顔が綺麗でダメだ。しっかりしないと高杉さんのペースに流される。次ジントニックなと言われて少し平常心を取り戻す。

「で、月曜どうなんだ?」
「もう遊びにいく前提なんですか?」
「当たり前だ」

何この俺様。本当にこんな強引な人いるんだ。それに月曜は午前中で大学は終わって午後からヒマなのがまた。遊びに行くのはいいけど緊張しそう。ジントニックを出して一応午後はひまですと答える。

「なら決まりだな」

またそう言って笑う高杉さん。今日の高杉さんは心臓に悪いな。胸ポケットから名刺を取り出し裏返しペンで何かを書いて渡された。

「連絡先登録しといて」

わかりましたと受け取りポケットにしまう。グラスを見るとかなりハイペース。中身は空で私の視線の先を追った高杉さんは、同じやつと言われ私はジントニックを作ろうとビンを取ろうとしたら、横から手が伸びてきてビンを先に取られてしまった。

「ういちゃん、休憩行ってきていいよ」
「作ってから入りますよ?」
「いいから」

銀さん何か不機嫌だな。書類仕事そんなに嫌だったのか。何だかそれ以上話しかけるのが億劫になってしまい素直にじゃあ、休憩入りますと私は裏に回った。鞄から携帯を取り出してさっきもらった高杉さんの連絡先を登録する。なんだかんだ楽しみで浮かれて頬が緩んでいた私は銀さんがいつもと違って不機嫌だった理由も銀さんと高杉さんが何を話していたかなんて知らなかった。



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