どうしてひどくこだわる
ピンポーンピンポーンピンピンピンポーン
連打されるインターホン。俺の家に来る時にこんな事をしてくるのは、あの子しかいない。玄関へと向かうその間もインターホンはうるさい。扉を開けるとフラフラになりながらもなんとかその場に立っているういちゃん。青い顔して口元を手で押さえている。
「そんなに連打しなくても……。どこかの取り立てじゃあるまいし」
「……吐く」
そう微かに呟いたういちゃんの肩を支えてトイレまで運んだ。数分してトイレで吐いて少し楽になったのか人の家だというのにソファーを丸々占領して横になってしまった。
お隣の家の美鈴ういちゃん。大3の一人暮らし。隣同士といっても最初は挨拶を交わす程度だったけど、こうしてういちゃんが家に来るようになった発端もお酒絡み。家の前で力尽きて倒れているういちゃんを介抱したのが始まりだ。
コップに水を入れて差し出すも反応がないのでテーブルに置くと飲むとゆっくり起きだしたういちゃん。だるそうに背もたれにもたれかかって手を差し出してきたので無言で水を渡すと一気飲みをする。ソファーが空いたので隣に腰をかけるとういちゃんは横になれないと不機嫌な顔を向けてきた。俺はそれに気づかないふりをしてういちゃんに話しかける。
「何でいつもそんなになるまで飲むの」
「だって美味しいだもん」
「自分の限界知らない訳じゃないでしょ?」
不機嫌な顔から一転してバツの悪そうな顔をして目をそらされた。
「あと、周りが勧めてくるもん。私はイエスマンなんです」
「自分でセーブしないと。おいちゃんがいるからいいやなんて思ってないよね?」
思ってませんよーと言っている顔にはそうですと書いてある。困ったお嬢ちゃんが隣人なもんだ。
「赤林さんが隣にいてくれたらこんなに潰れることもないかもですね」
「それは無理な相談だねぇ」
気持ちが悪かっただけなのか随分回復が早い。こんなに元気そうなら早く家に帰してしまおう。
「ういちゃん、そろそろお家に帰りなさい」
「……まだ気分が……。そうだ今度赤林さん一緒に飲みましょうよ」
「話しをそらさない」
鞄を持たせて玄関まで押し出すように連れてくると渋々と靴を履いてくれた。
「赤林さんひどいです」
「そう、おいちゃんはひどい人なの。知ってるでしょ?」
「知ってます。ありがとうございました、さようなら」
あっさりと扉を開けて自分の家に帰っていったういちゃん。少し扉の前で呆然としていると再び扉が音を立てて開いてその間から顔を覗かせたういちゃんは飲みに行きましょうねと一言楽しそうに言い放って帰って行った。