優しい手は偽物で

閉ざされた扉。殺風景の中に引かれている布団はとても目立つ。横にはなりたいけどあの布団に近づきたくなくて自然と距離を取ってしまう。足を動かすと金属が掠れる音。

遠くから聞こえてくる足音。身がすくむ。鍵が開く音が聞こえると体が部屋の隅に隅にと動き体が震える。

「うい」

黒い服。胸元のスカーフは取られていて今日も仕事終わりな様だ。ここは窓もないから時間がわからないけど。私の名前を呼びながら近づいてきて目線を合わせる様にしゃがみ込むと有無を言わさず乱暴に唇を奪われる。

彼が満足したところで離れる唇。次に何をされるかわからなくて一層体が震えるけどそれはこの人を興奮させる材料でしかないらしい。

「そんなに怖がるな」

口調はとても優しいけど腕を引っ張られ布団に無理矢理組み敷かれる。ついに泣くもんかと目に溜めていた涙が溢れて止まらなくなる。泣かないでくれなんて頬を伝う涙を舌が拭う。

「助けて……。銀ちゃん」

禁句なのはわかってるけどやっぱり愛しい人の顔は浮かんでくるわけで舐められたその頬は次の瞬間乾いた音ともにヒリヒリとした痛みに襲われる。

「俺の前で他の男の名前を出すなと何度言ったらわかる。俺だって好きな女を叩きたくなんかないんだ」

そう言ってさっき振り下ろされた手は私の頬を優しく撫でるのだ。






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