第1ボタン

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「ういー。切原先輩に告白しなくてもいいの?」
「うーん。いいかな……。それに、声掛けれる状況じゃなさそうだし」
「諦めなくてもいいじゃん。誰より切原先輩の近くにいたのに」

私はこの立海大附属に入って男子テニス部のマネージャーをしていた。切原先輩は部長でもあったから、私は関わることが多かった。合宿の時、切原先輩の双子の妹さんにもお世話になったものだ。教室からグラウンドで騒いでいる3年生を見る。ふとグラウンドの隅の方を見ると切原先輩が同級生の女の子に呼ばれていた。

「そうそう。無理無理」

隣で友達の溜息が聞こえた。するとグッと腕を引っ張られた。

「イチかバチかでしょ? 行ってきなよ。これ逃すとチャンスないよ?」

そう言われて、鞄をもたされて無理矢理廊下に出された。行く勇気なんてないし、鞄ももたされたし、先に帰るか。そう思い友達にメールをしようと携帯を開くと幸村先輩からメールが入っていた。本文を見てみると、今日の夕方から切原先輩の卒業パーティーをするからういもおいでと言う内容だった。全文読んだと思ったら下にまだ文があるらしくスクロールバーが出てきた。下に画面を下げると最後の一文にはこう書いてあった。

“ちゃんと赤也に告白してから来るんだよ”

幸村先輩にはなんでもお見通しらしい。幸村先輩の言葉には揺らいだけど、やはりそのまま帰ろうと昇降口に向かった。すると、切原先輩の告白されている所を目撃してしまった。

そのまま帰ればいいものを、足がなぜか動かない。去って行った女の子は泣いていた、切原先輩断ったんだ。やっと足が動いた。一歩歩いたら切原先輩がこちらに気づいた。

「盗み聞きか?」
「違いますよ。たまたま」
「そっか」

幸村部長からメール来ました? 主役の切原先輩に送っていないわけがないだろう。メール? 今見てみるわ。と携帯を開く先輩。メールを確認するとういも参加するだろ? と聞いてきた。

「あっはい。もちろん行きますよ」

何かに気がついたのかしばらく携帯を見て固まって顔が赤くなる先輩。どうしたんですか? と聞くとさらに顔が赤くなった。

「……なぁ、ういって好きなやつとかいたりする?」

急な質問に言葉を詰まらせた。別にいないわけじゃないんですけど、いるにはいますよ。誰? 誰と聞かれても。そして気づいてしまった。切原先輩の第2ボタンが無い事に。あーもういるんだ。ダメじゃん。逆に諦めがついた気がした。

「先輩です。先輩が好きでした」
「……でした? 過去形かよ」

泣きたくなってきた。目元を隠すように手で覆う。あー、早く行ってくれないかな。

「俺は、ういの事が好きだ」
「え?」

それ本当ですか? なんでこんな事で嘘つかなきゃいけねぇんだよ。だって、先輩第2ボタン……無いじゃないですか。

「あ? コレ? 実は誰にもあげれないことになったら可哀想って雨依に言われてさっき引きちぎられたんだよ。アイツほんと容赦ねーからな」

そんな事だったのか。雨依先輩なかなかな事をしてくれる。安心したらこらえていた涙が出て来てしまった。

「何で泣くんだよ。俺に好きって言われたのがそんなにショックかよ」
「……っ、違い、違いますよ! 私、今でも先輩の事が好きで……」

涙で視界が悪いけど、先輩が面をくらったような顔しているのがわかる。次の瞬間視界が暗くなった。……私切原先輩に抱きしめられてる……?

「すげぇ、嬉しい」

そして2人で笑い合った。急にあっ、そうだ! と背中に回されていた腕を離される。先輩はおもむろに自分の第1ボタンを引きちぎった。

「これやる。」
「?」

雨依に聞いたんだ。第2ボタンをあげる理由。2番目のボタンは大切な人の意味があるからなんだってよ。1番上のボタンは自分の事なんだって。だから、それを俺だと思って持っていてほしい。

今日は何回泣けばいいんだろう。泣くなよと言う先輩に構わずまた泣いてしまった。嬉しいんですよ。先輩、ありがとうございます。今度は自分から先輩に抱きついた。


第1ボタン
(今日の卒業祝いは、)



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はい。幸村さんの策略という事で。第1ボタンの意ってそういう事って聞いたことがあるんですけど違ってたらごめんなさい。

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