寂しがりやなこども
月を見ながら晩酌。とても綺麗な満月だ。隣には三番隊隊長市丸ギン。仕事でクタクタになっていた私。今日は帰って一人で飲むぞと意気込んでいたところに隊長からお誘いがきた。部下としては断わることは言語道断であるが隊長ならとてもおいしいお酒を持っているだろうと現金な考えの元隊長宅にお邪魔した。
予想以上のおいしいお酒に私が作った簡単なおつまみ。こんなにおいしいお酒ならばもっと凝ったおつまみを作ればよかった。
「隊長は一人で晩酌されるのが好きだと思っていました。こうやって人と飲まれることもあるのですね」
「今日は誰かと飲みたい気分やってん。そこにういが通りかかったもんやからちょうどいい思てな」
もっといい女の人誘った方がよかったんではないんですか? なかなかいい女なんかおれへんよ。たまには部下との親交でも深めよう思て。そう言ってお酒を飲む隊長。うん、満月とお酒と隊長。とても絵になる。
「明日ボク休みなんよ」
「私もですよ」
明日は副隊長少しは気楽かなと少し吹き出してしまいそうになる。いきなり笑ってしまった私に隊長が何がおかしいん?と首を傾げる。いえ、なんでもありませんと笑いをこらえて返事をする。
「せやったら今日泊まっていきはる?」
何を言い出すのだ、この人は。唐突過ぎる。隊長のとんでも発言に咄嗟の言葉も出ない。それに泊まっていけるわけがない。
「どないする? あれやったら隊長命令で泊まらすけど?」
「いえ! 泊まるなんてとんでもないです!」
じゃあ、私そろそろ帰りますね。と立ち上がったのに、腕を引っ張られ胡座をかいている隊長のひざへと倒れこむ。隊長、痛いです。と顔を上げるといつもの細目からは見えない瞳が目の前に。
「た、隊長?」
「やっぱり泊まっていき」
そのまま抱きしめられる形になって、身動きが取れなくなる。抵抗したって敵うわけがないとわかりきっているから大人しく抱きしめられる。どうしよう。顔が熱い。
「隊長? 離していただけると嬉しいのですが」
「泊まってくなら離したってもいいで」
なぜ、こんなことを私に。いや、飲みに誘われただけでもありえない話し。確かに普段から隊長とはよく話していた方だとは思うけど。考えても相変わらず状況は変わらない。
「また今度来ますから。それで勘弁してください」
「いやや」
寂しがりやなこども