初体験!ハニートラップ

今日のお昼は角にあるパン屋のカツサンド。野菜がたっぷりでカツも油っ濃くなくてこれがまた美味しいんだよねー。これが食べたくて午前のお仕事を頑張ったのだ。弾む気持ちを抑えてゆっくりと包みを開く。

「いっただきまーす!」

事務所内に私の声が響くものの仲間にはああういかと言う視線が飛んでくる。少し離れたデスクから赤井さんとジェイムズさんも一旦会話を止めて視線が飛んでくるけど気にしない気にしない。それよりさっきから何の話しをしているんだろう。会話を盗み聞きしてやろうと少し椅子を近くに寄せて耳をすましてみる。ああカツが美味しいよー

「それで作戦なんだが」
「この場合は囮作戦だな。ターゲットの好みの女は?」
「日本人だ……」

ふーん。所謂ハニートラップか。女の日本人の人がやるんだ。へー。女の日本人ねー。女の日本人? 女。日本人。私は社内を見渡し1人1人女の人を確認しながらその人が何人だったか思い出す。社内にいる日本人女性は私だけ。外に出ている女性を思い出すが日本人女性の顔は思い浮かばない。あれ?

「えー! それ私がハニートラップするってことですか!?」

先ほどの声より大き目に響いた私の声。赤井さんとジェイムズさんからコイツがやるしかないのかという視線を向けられる。

「話しを聞いているならこっちにこい」
「イエッサー」

カツサンドを包み直しデスクに置いて2人の間に立つ。ジェイムズさんから資料をもらい文を目で追う。

「それよりうい分かってるか。ハニートラップって対象の好みに合わせて近づくってことだぞ。ジェイムズ、ういのなけなしの色気で相手が近づいてくるか俺は不安なんだが」
「ちょっと赤井さん失礼な!」
「ああそれなら心配いらんよ。このターゲットは少女趣味なんだ」

ジェイムズさん何かサラッと酷いこと言ってない? 気のせい? 気のせいだよね?

「何か腑に落ちないですけど私やりますよ」
「別にやるのは構わんがうい囮作戦初めてだろ? 演技は出来るのか?」
「こう見えても私赤井さんの優秀な部下ですよ? 大丈夫出来ます」
「優秀? 俺はういの事を優秀だと言った覚えはないぞ。厄介な部下だとは思っているが」

なぜ、そこで否定をする。ジェイムズさんはどこからくるのだ、その自信はという目で見てくる。

「出来ますよ。大丈夫です。入念に打ち合わせさせてもらえるんですよね?」
「ああ、もちろん。サポートはさせてもらうよ」
「赤井さんも囮作戦何度かしているので演技とか詳しく聞きたいんですけどいいですか?」
「構わないが」

そして、午後から詳細な打ち合わせするから会議室に集まるよう言われそれぞれデスクに戻った。

詳細と言っても簡単に言ってしまえばターゲットが参加するパーティーに私が潜り込み近づく。その間にターゲットのホテルの部屋がある階にエフビーアイを送り込んだり人を避難させたり。1時間ほどして私とやってきたターゲットをとっ捕まえるという流れだ。異性がそこにいたら相手は周りの警戒を解くもの。要は私は逮捕の確率を上げる為とても大切な役割を任されているわけだ。当日連れ込むまでの流れは私1人なので流れを何度も確認し今日がその日だ。

白いAラインのワンピースに赤いパンプス。赤い細いベルトの腕時計。赤いクラッチバッグ。髪はツインハーフアップをくるりんぱ。設定としては15歳あたりのイメージだそうだ。私18なんですけど。15歳から見た18って結構大人に見えますよ?

「良く似合っているよ」
「ジェイムズ。これは馬子にも衣装といって見た目を良くすればそれなりに見えるっていうものです」
「素直に可愛いって言ってください! 似合ってもあんまり嬉しくないですけど」

自分で可愛いと言うのもどうかと思うがその言葉に鼻で笑った赤井さんは似合ってるぞと言った。上司チェンジしてもらいたい。

「では、そろそろいってきますね」

パーティー会場に向かおうと足を進めると腕を掴まれた。振り返るとその手は赤井さんのもので顔を見ようとしても赤井さんは顔を横に向けてしまっている。一体なんだ?

「危なかったらすぐ助けに行くから鞄に携帯ちゃんと入ってるよな」
「なんですか。ツンデレですか? ……ちゃんと入ってるんで安心してください。連絡する必要も無く上手くやってきますけどね」

掴まれていた腕が解放され再びパーティー会場へと足を進めた。中に入ると豪華なシャンデリアに丸いテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいる。近くを通ったスタッフからブドウジュースをもらいそれを片手にターゲットを探す。特徴は白髪、老人、眼鏡、エロジジイっぽい顔。頭の中に特徴と写真を思い浮かべ人と人の間をかき分ける。

エロジジイ、エロジジイ……。いた、エロジジイじゃない、ターゲット。白いスーツをビシッと着こなしている。あとは上手くこのジュースを服にぶっかけてすみませんークリーニング代払いますー いやいやお嬢ちゃん。これくらい大丈夫だよ。じゃあ、私は一旦部屋に戻るよ。着替えもしたいし。そんな悪いです! それでエロジジイだから上手いこと自分の部屋に無理矢理連れていこう。みたいな流れになるというシナリオ。そして部屋に入る前で逮捕だ。

そんなに上手くいくものなのか? とりあえずターゲットがこっちに向かって来ているのでチャンスは今しかない。腕時計を確認すると丁度いい感じに時間は経っている。歩いてくるターゲットに人混みに押された振りをしてぶつかった。反動で尻餅をついてしまったがジュースをかけることに成功した。よし。

でも身長差的に私がジュースを持っている位置が腰より少し上辺りだったもんだからその何だ。丁度股間辺りにかかってしまってた。しかもブドウジュースなもんだからそこが血だらけみたいに見える。なんか、ごめん。

まぁ、当の本人はこめかみに青筋を浮かべているわけだがこのエロジジイどうやら周りには紳士キャラで通していて女子供には滅法優しいと有名らしい。多分本人的にはめっちゃ怒りたいけど怒ってしまったらイメージが崩れてしまうから顔は笑っている。目の奥とこめかみは笑ってないけど。周りはあの人はこんな事では怒らないと知っているのかあらあらと笑っている。ターゲットは必死に紳士的な笑顔を辺りに振りまいてまだ尻餅をついてしまっている私に手を伸ばしてきた。私はその手をとり起き上がる。

「申し訳ありません! あのクリーニング代お支払いします!」
「いやいやこのくらい大丈夫だから。心配しないで」

この人私達が作ったシナリオでも読んだの? 単純だなぁ

「そんな! でもやはり悪いのでクリーニング代を」

鞄から財布を出してお金を渡そうとするも頑なに受け取らない。んーイメージ大事なんだね。私の手を制して隣で話しをしていた人に顔を向けるターゲット。

「私は一旦部屋に戻るよ。君ももういいから」
「でも……」
「それじゃあ、外にあるケーキでもご馳走してもらおうかな」

そう言いながらターゲットは目線を周りに移し様子を伺い始めた。それほど私たちのやり取りに目を向けなくなっていたのをいい事に私の手を強く引っ張って耳元に口を寄せてきた。

「お嬢ちゃん。私に大人しく着いてきたら許してあげるよ。君の親御さんもここに来てるんだろう? 私は会社を潰すことなんて容易く出来るんだ」

肩を撫でられ気持ち悪いがシナリオ通り過ぎる。このまま部屋に行けば私の仕事は終わりだ。私は怖がるように首を縦に振り震えながら会場を出ていくターゲットを追い最上階まで直通のエレベーターにターゲットと乗り込む。エレベーター内は2人きりで最上階はもうエフビーアイで埋め尽くされているハズだ。

それにしても一般の人を巻き込みたくはないので誰も乗り合わせてないのは嬉しいが最上階まで止まることのないエレベーターなので途中で人が乗ってこないのをいい理由にさっきから私のお尻や太ももを撫で回してくる。気持ち悪いけど耐える。もう演技じゃない。リアルに気持ち悪い。殴り飛ばしたい。いつ止まるか電光版を見て確認したいけど下を向いて怖がる演技をしていなければいけない。早くつけ。早くつけ。

軽い電子音がしてエレベーターが止まり扉が開く。腰に手を回され部屋の前まで連れていかれる。カードキーでロックを解除した扉を開けるターゲット。顔はとてもニヤついてる。

「さぁ、入りなさい」

私が部屋に1歩踏み入れた瞬間廊下から聞こえる複数の足音。一斉に足音が止む。ジェイムズさんの声が聞こえ私は振り返る。

「手を挙げて膝をつけ」

ターゲットは悔しそうに顔を歪めジェイムズさんの言う通りの姿勢をとった。

お仕事終了!

ホテルの中は何事だとざわついていて外は大物逮捕を嗅ぎつけたマスコミで溢れかえっていた。私はジェイムズさんの好意で先に返してもらえることになり家まで送ってくれるという赤井さんと一緒に駐車場に向かっていた。

「上手くいって良かったです」
「単純な相手だとわかっていたからういに任せたんだ」
「確かにシナリオ通りでした」
「だろ?」
「でもこれで私も囮作戦への道を1歩踏み出した訳ですからアドリブも練習して」
「次も簡単なやつしかやらせないからな」
「何でですか? 私今日上手くできたと思うんですけど。それとも私には応用が効かないとでも?」
「一応俺の部下だからな。囮なんてやってると本当に抱かれなきゃいけない時だって来るんだ」
「確かに嫌ですけど仕事ですしね」
「……あまりそういうことはさせたくないんでね」

その言葉にびっくりして赤井さんを見上げる。顔を横に向けられ表情がわからないけど私は嬉しくなって赤井さんに飛びついた。

「離れろ」
「いやー赤井さん部下思いのいい上司ですね。常日頃上司変えて欲しいと思ってましたけど私一生赤井さんの部下でいます」
「俺も常日頃部下を変えて欲しいと思ってるけどな。本当にでかいヘマをしたらジェイムズに直接変えてくれって訴えるからな」
「わかってますよー。ヘマしてもカバってくれるくせに」

駐車場につきロックを外す赤井さんは私を引きはがすとさっさと運転席に座って目に見えぬ早さでエンジンをかけるとゆっくりと発進を始める赤井さん。あの私まだ乗ってないんですけど。徐行で動く車に合わせながら歩くと助手席の窓がゆっくりと空きそこからエンジン音より少し大きめの声で赤井さんの声が聞こえる。

「うい。やっぱり1人で帰れ。じゃあな」

次の瞬間車は急発進して車は見えなくなってしまった。やっぱ上司チェンジで。








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