日本に到着

飛行機の搭乗時間終了ギリギリ間に合うか間に合わないかまで仕事をしていた私は仕事が終わると同時に事務所を飛び出し空港に猛ダッシュで向かった。

空港に着き慌てながら搭乗ゲートをくぐった。周りのCAさんに挨拶しながら機内に入り席を探しているとジョディさんが手を上げてこっちこっちと呼んでくれた。ジョディさんは席が2つ並びの窓側に座っていた。荷物を棚に上げてジョディさんの隣の席に座り、シートベルトをかける。

「間に合って良かったです」
「仕事は無事に終わったの?」
「終わりましたよー。疲れました」
「お疲れ様うい。特に連絡事項などは無いから機内は自由に過ごして大丈夫よ」


わかりましたーと言ってからそこからの記憶が無いので死んだように寝ていたのだろう。体には見覚えのない毛布が掛かっている。ジョディさんが掛けてくれたのかな? そして今は何時でどこら辺を飛んでいるのだろう。そんな疑問を抱えながら狭い空間で寝ていて硬くなってしまった体を伸ばす。隣からジョディさんのおはようと言う声が聞こえた。おはようございます! と勢いよく左側を振り返ったら首に激痛が走った。慌てて首を戻し手で首を摩る。

「いったーいった。首寝違えた」
「すごい首の角度だったもの」

直してくれたら良かったのにと呟くと意地悪く笑ったジョディさん。首が横に回らないので体ごと横を向きジョディさんと会話することにした。

「あのこの毛布は?」
「私が掛けてあげたのよ」
「ありがとうございます。それとあとどのくらいで着くんですか?」
「あと1時間くらいで着くわよ」
「1時間。あれ? 私の機内食はどうしたんですか?」
「起こしても起きなかったから断ったわよ」

機内食食べ損ねた。そういえばこの2日間ろくにご飯食べてなかったなー。そう思うと余計にお腹が空いてくる。お腹なりそう。

「そういえばうい。日本はいつ振りなの?」
「そうですね。16くらいまでは1年に1回母方の実家に行ってたので6年振りくらいですかね」

日本のご飯は美味しいから楽しみだなー。日本に遊びに来たことを思い出していると着陸のアナウンスがかかった。結局シートベルトは外さずそのままだったのでどんどん近づく滑走路をなんとなく眺めていた。無事着陸し飛行機を降りる。空港の時計を確認すると日本は夜の23時だ。

「じゃあ、私はここで。ういはシュウが迎えに来るんでしょ?」
「え? そうなんですか?」
「私はそう聞いてたけど」

そう言えば忙しくて携帯の存在を忘れていた。メールを開くと空港に迎えに行くとメールが来ていたので今着きましたと返しておく。ジョディさんはじゃあ、また学校でと空港を出ようとしていた。

「赤井さんに会わなくていいんですか?」
「私も疲れてるしそれにその内会うだろうしね」
「そうですか。では、おやすみなさい」
「おやすみ」

ジョディさんはカバンを肩にかけ直して空港を後にしていた。その背中を見送っていると赤井さんから電話がかかってきた。

「今どこにいる?」
「まだ空港の中です」
「そのまま正面出入り口から出てこい」

わかりましたと携帯を切りながら正面出入り口を探し外に出ると車に乗った赤井さんを……。赤井さん? 暗くてよく見えないけど雰囲気が違う気がする。車に近づき助手席側に回り車に乗り込むと車はゆっくり発進し始めた。それより、違和感。後ろ髪がないんですけど。

「え? 髪切りました?」
「ああ」
「え? どうしてですか?」
「何でもいいだろ。それよりういは変わらないな」
「少しは大人になったと思うんですけど」
「なってないと思ったから生徒役に選んだが……。俺の見立ては間違ってはなかったな」

相変わらずツン成分が多い人だ。髪は減ったが余計な口数は減ってない。

「相変わらず失礼ですね」
「それよりさっきからその体制はなんだ?」

赤井さんの車は左ハンドル。左側に首を向けられない私は不自然なくらい前を向いている。だってこれ以上赤井さんの方を向くと首に激痛が。しかしこの人にそれを知られたら何をされるかわかったもんじゃない。知られずに切り抜けるにはどうしたらいいのか。車は目の前の信号が赤になりとまった。

「体制ですか? 何か変ですか?」
「うい、左側の夜景が綺麗だぞ」
「ほ、ほんとですねー」

体ごと左を向くと赤井さんの右手が私の顎を掴むと思いっきり左側に首を捻られた。とてつもない激痛に上半身を屈めてしまう。畜生、涙目になってしまったじゃないか。車のハンドルを握り直し信号が青に変わった。車を発進させる赤井さんから楽しげな短い笑い声が聞こえる。この野郎。

「おおかた荷造りに時間がかかってギリギリまで仕事してて飛行機で爆睡してたんだろ」

まだ首が痛む私はそこを摩りながらその通りですよと返す。こういう時頭が冴える男は嫌だとつくづく思う。

「で、どうせ何も食べてないんだろ。さすがに寝違えまでは俺でもわからないから湿布はないがそこのコンビニのおにぎり食べていいぞ」

実はずっと気になっていた運転席と助手席の間に置かれたコンビニの袋から覗くおにぎり。シーチキンと梅のおにぎりだ。ペットボトルのお茶も入っている。前言撤回。冴える男最高。

「いただきます! お腹ペコペコで」
「あとで516円返せよ」

ケチな男だ。相当稼いでるくせに。なんて言えもしないので素直にわかりましたと返しおにぎりを開封する。久々に梅干し食べたよー。美味しいよぉ。もそもそとおにぎりを食べながらそういえば迎えに来てもらったお礼をしていないのを思い出す。

「そういえば、迎えに来てくれてありがとうございます。でも私1人で家くらい行けますよ?」
「迎えに来るのは当たり前だろ? この時間にうい1人で歩いてると補導されるからな」
「そうですよね! 可愛い部下を久しぶりの日本に1人放っておけな……い……。ん? 補導? 別にこれ見せればいいじゃないですか?」

私は保険証を見せると右腕が伸びてきてそれを取られてしまった。私の保険証は赤井さんが来ているジャケットのポッケトに仕舞われる。代わりにそこから出てきた免許証のようなカードを渡された。それは私が潜入する帝丹高校の身分証明書だった。

「ういは日本では高校2年生だ。こんな時間にうろついてると補導されるぞ」
「そうだった……」

未成年超不便。梅おにぎりを食べ終わり次のおにぎりに手を伸ばす。

「っていうことはこの状況。赤井さんは女子高生を深夜車に乗せて走らせてるってことですね」

そう言いながら体制を赤井さんに向けると赤井さんは何やら思い出しているのか微笑んでいた。あまりにも見たことがないその顔。……何笑ってるのか気になるけど突っ込むのはやめておこう。何か怖いし。包みを開けてシーチキンおにぎりを食べる。お米が美味しいよー。

「別に悪いことはないだろう。知り合いなんだしな」
「そうですね」

外を見れば写真で見たアパートが近づいてきて車がとまった。私はゴミをビニール袋にまとめる。

「送っていただきありがとうございました」
「何か困ったことがあったら俺に連絡をいれろ。あと部屋を汚すな。わかったな」
「今回の荷造りで懲りたのでちょっと反省してます。私もまたその都度報告いれます」
「ああ。頼んだぞ」

私が助手席を降りようとするとおいと呼ばれる。体ごと振り返ると手のひらをこちらに向けて516円と言っている。私は財布から516円を取り出し(奇跡的にピッタリあった)その手のひらに乗せる。

「何か文句あるのか?」
「ないですよー。おやすみなさーい」
「ああ。おやすみ」

助手席のドアを閉めると赤井さんはさっさと車を走らせていってしまった。相変わらずな上司にため息をつきながらアパートの階段を上がる。部屋の前には送った荷物が届いていたので鍵を開け中に入れる。玄関の鍵をかけて家の電気をつけると何も変哲もないワンルームだ。隅にはエフビーアイにお願いしておいた布団が畳んでおいてあるだけの殺風景な部屋。確か他の家具家電は明日届くんだっけ。そんなことを考えながらダンボールを開けパジャマを探して簡単にお風呂を済ませ寝る体勢に入る。あとは、ジェイムズさんに着いたと連絡を入れておいた。

布団を敷いて横になるも飛行機の中で寝すぎて全然眠気が襲ってこない。それでいても日本とニューヨークの時差に慣れるのは大変だろう。なんとなく携帯をいじっている赤井さんからのメールで明日8時に家に行くとのメールがきた。了解ですと返し私はとりあえず目だけでもつぶって休もうと目を閉じた。

ああ。それにしても高校生か。バレないように上手くやらないと。





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