7.優しい動揺

明日10時に駅前待ち合わせでお願いね。坂田さんからそう連絡が来た。

「明日朝から出るね」
「ホントに行くのか?」

行くよ。ダメ? ダメではないが……。どこか歯切れの悪い兄様。どうやらまだ納得が言ってないようだ。

「ダメじゃないならいいじゃん」
「あの銀時だぞ」
「じゃあ、土方さんだったらいいの?」
「まだそっちの方が安心する」

そうなんだ。坂田さんってやっぱり女遊びでも激しいのかな? 確かにチャラい感じはあるけど実際に遊んでるかどうかは知らない。ただ雰囲気がそうなだけだし。

「そんなに心配いらないよ。帰る時連絡いれるし」

最後まで不満そうな兄様だったがそんなとこまで口出しされると私もあまり気分が良くないので朝はなんとなく顔を合わせずに出てきてしまった。いってくるって連絡は入れたけど。

駅前に出ると平日だから人は少ない。どこから来るかわからない坂田さんを待っていると一台の黒の軽自動車が目の前で停まった。車から降りてきたのは坂田さんでおはよーと間延びした声で挨拶をされたのでおはようございますと返す。乗ってと助手席のドアを開けてくれたので私は車に乗り込んだ。シートベルトをして、坂田さんも運転席に座り静かに車を発進させた。

「どこに連れていってくれるんですか?」
「内緒。ミステリーツアーってことにしといて」

そう言って車を走らせる坂田さんはいつもよりちょっぴり真面目な表情をしている。少し車を走らせるといつか雑誌で見たイタリアンのお店。駐車場に車を停め、お店に入ると予約してあったのか個室に通される。明るすぎない店内で女子会とかでよく使われるのだろうなと思いながら小さい1人がけのソファーに腰をかける。

「勝手に店決めてなんだけどういちゃん食べ物好き嫌いある?」
「特にないですよ」

良かったとホッと笑う坂田さん。女慣れしているかただの気遣いができる人なのかはわからないけれど、別に嫌な気はしない。ランチセットを頼んで料理待ち。

「ういちゃんって料理するんだよね?」
「はい。しますよ」
「得意料理とかあるの?」
「炒飯とか兄様に好評ですよ。坂田さんは自炊とかするんですか?」
「一応。ケーキとか作るよ」

話しを聞くとかなりな甘党だ。お菓子は作ったことないな。兄様あまり甘いの好きじゃないし。バレンタインとかはいつも買っちゃうしなぁ。そんな会話をしているとランチセットが運ばれてくる。パスタにスープにデザート。パスタを口に運ぶ。

「おいしい」

そう呟いた私を見て坂田さんは満足そうに笑った。会話をしながら食べて食後のコーヒーが運ばれてきた。私はブラック派だけど坂田さんはこれでもかと砂糖を入れる。どれだけ甘党なんですかと思わず笑ってしまった。そういえばデザート食べてる時も幸せそうな顔してたな。お店を出て車に乗り込む。

「さて、次行きますか」

ミステリーツアーだから私は行き先を知らない。外を眺めていると少し田舎っぽい道に入った。流れていった大きい看板にはアウトレットモールの文字。確か大きいのがあったっけ。

「もしかしてアウトレットですか?」
「バレちゃった? 俺さっきの食べ物じゃないけどういちゃんが何が好きとか良く知らないからとりあえず俺たち共通の話題の服にしようかなって」

確かにそれだと話しに困らない。私も服が見れて楽しいし。最近自分の服買ってないし買ってしまおう。

駐車場に着いてバックで車を停める。さっきのイタリアンのお店でも思ったけどよく雑誌で見る男の人の仕草で好きなバック駐車。何がいいのかよくわからなかったけど実際体験してみるとかっこいいなって思ってしまう私は意外と単純だという事を知った。

人が少なくてかなり快適。一つ一つお店を見て回る。やはり店員さんは私達に気づくのかいつも雑誌で見てますと何度か声をかけられた。途中喫茶店で休憩を挟みながら気になるお店を見て回った。

時刻は17時。ミステリーツアーなのでこのまま帰るのかご飯を食べて帰るのか私にはわからない。そろそろ戻るかと車に乗ったけど車は動かず坂田さんは運転席に座って私の方を向く。

「ミステリーツアーはここまで。夜ご飯どうするかはういちゃんが決めていいよ」

実はさっき兄様から今日は外で食べると連絡があったばかり。なので食べて行きたいですと答え了解と車を発進させる。

「ういちゃんって飲める?」
「飲めますけど坂田さん車なんで飲めませんよね?」
「車置いて帰るから大丈夫」

行きつけの居酒屋でもいい? と言われるのでお任せしますと答え車は軽快に目的地に向かう。

見慣れた街並み。家の近くだ。着いた先はお洒落な雰囲気の居酒屋。こんな所あったんだ。坂田さんは店員さんにまた来たんですか? と言われていた。お昼同様、個室に通される。坂田さんのお店の好みと私の好みは似ているかもしれない。席に着きそれぞれ適当に頼みお酒が運ばれてきた。

「今日はどうだった?」
「楽しかったです」
「俺のこと好きになりそう?」
「一緒にいるのは楽しいですよ」

それってやっぱり友人以上にはならないってこと? とお酒を口に運びながら言う坂田さん。

「んー、坂田さんって女慣れしてるのかただ気遣いが出来る人なのかわからないです」
「俺意外と一途だよ。別に女遊びしてるわけでもないし」
「本当ですか?」

本当、本当と言う坂田さん。とりあえずそれを信じるとしても実際に会って2回目だしやっぱりよくわからない。

「返事は急かさないから普通にお友達から始めない?」

友達……。友達ならいいか。友達かぁ。なんか嬉しいな。自然と顔が笑顔になっていたのか撮影現場でもそうしてればいいのにと言われてしまった。

「でも惚れる奴がまた増えそうだから愛想なくていいかも」
「彼氏見たいなこと言いますね。坂田さんはお友達でしょ」

ちょっと残念そうな顔をした坂田さんはそうですね。お友達でしたねと声のトーンが少し低い。……坂田さんは雰囲気がどうであれ優しい人には変わりない。早く返事をしないとなと素直にそう思った。


食事も終わり家も近かったので徒歩で帰ろうとしたら坂田さんは送ってくと着いて来てくれた。駅は逆方向だからいいと断ったけど頑なに送ると言うので送ってもらってしまった。じゃあ、また連絡するねと背を向け来た道を戻っていった。ありがとうございましたとお礼を言うと振り返らずに片手を振ってそのまま角に消えて行った。

優しい動揺



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