6.仕掛けのない愛情表現

事務所のロビーで打ち合わせをしていると玄関からういちゃんが入ってきた。目線でその姿を追っているとマネージャーから聞いてます? と声がかかった。

「ごめん。聞いてる。聞いてる」
「ういさんですか? 坂田さんホント好きですよね」

悪いか。コノヤローとマネージャーといつもの茶番。この打ち合わせが終われば今日の予定は無し。ういちゃんをロビーで待っていようかなと考えているとういちゃんが戻ってきて、自販機で飲み物を買い、壁に寄りかかって飲み物を飲み始めた。

「では、今日の打ち合わせは終了です」
「あっ、うん。ありがと」

また見てましたねと言われちゃんと聞いてたよと返すとわかってますと笑い混じりに返ってくる。入った時からのマネージャーだからこういう時細かい事気にしなくていいから助かる。

「別に恋愛は自由ですけど一応カメラは気をつけてくださいよ」

しっかりと事務所からの忠告をしてマネージャーはじゃあ、明後日お願いしますと帰っていった。別に言われるほど追いかけられてはいないからそこまで心配することはないけど。ういもブラコンのイメージが強いし特に問題は無いだろう。俺も自販機で飲み物を買いういちゃんの隣に並んだ。

「こんにちは、ういちゃん」
「こんにちは」

前と変わらず素っ気ない態度だ。

「誰か待ってるの?」
「兄様を待っています。この間いないからいいやと思って帰ったら普通待ってるだろと怒られたんで」
「いや、それは待つよね」
「坂田さんは帰っちゃいそうな感じありますけど」
「俺からしたら高杉は社長だからね」

俺の事苦手なんだろうなっていうのはこの間の撮影でなんとなく気づいてたけど案外しゃべってくれてびっくりした。やっぱりこの間は不機嫌なのもあったのか。でもここで会話が途切れてしまうあたり俺のこと苦手なんだろうなと感じてしまう。自分に素直なタイプだろうし何でも遠回しに聞くのはよくないんだろう。嘘偽りなく返されてしまうなら聞きたいことをそのまま聞いてしまうのが俺流だ。

「ういちゃんさー、俺の事苦手でしょ?」
「そうですよ。何か馴れ馴れしいし。でも変に取り繕ってないとこは嫌いじゃないです」

ほらね。やっぱ俺の思ったタイプだ。

「俺さーういちゃんのこと好きなんだよね」
「唐突ですね」
「別にすぐ返事もらわなくていいから、1回デートしない?」
「清々しいくらいグイグイ来ますね」

ちょっと引かれてるけど振られるなら早いほうがいいしここで1回くらいデートしてもらえたらもしかしたらチャンスがあるかもしれない。

「どう?」
「どうって言われても。その前に休み合うんですか?」

おお、いける? 俺はさっきマネージャーからもらったスケジュール表を見る。明日か来週の水曜なら空いてると言えば、明日は……休みですね……。とちょっと残念そうな声。断られるのを覚悟でちょっと冗談気味にじゃあ、明日ねと言うとはい。わかりましたと言われた。

「え? いいの?」
「デートしてみればカップル役で撮影する時の幅が広がるかなって。この間土方さんとカップル役だったんですけど感覚がわからなくて戸惑ってしまったので」
「えっ? 待って。待って。それってデートとかしたこと無いの?」
「異性なら兄様ぐらいですね」

えっ。マジ。じゃあ、まだファーストキスとかまだってことなのか? びっくりしすぎて言葉が出ないと同時に益々自分のものにしたいという欲が湧き上がってきてしまう。

「……そ、なんだ。ああ! デートどこ行きたい?」
「坂田さんにお任せします」
「わかった。そうだ、連絡先交換していい? 後で待ち合わせ場所とかメールする」

すんなりと登録されたういちゃんの連絡先。にやけそうになる口元を必死に堪えているとういちゃんの後ろから何してんだ? と低い男の声。

「兄様!」
「今日はちゃんと待ってたんだな」
「だって怒られたく無いし」

そんな会話をしている兄妹だがういちゃんは高杉の腕に抱きついているし高杉はういちゃんの頭を撫でている。何かまだこの光景慣れない。

「で、銀時は何してたんだ?」

目では俺の妹に何してんだ。野郎と言っている。この兄に明日妹とデートする何て言ったらどうなるかと想像しているとういちゃんがあっさり明日坂田さんとデートするのと言ってしまった。冷汗ダラダラの俺に高杉の視線が痛い。

「別に妹のそういう事に口出しするつもりはないが何で銀時なんだ」

頭を抱えられてしまった。そんなに不満かよ。でも俺が逆の立場で大好きな妹がナンパまがいなことされているのは気分が良くないかもしれない。別にういちゃんがうんて言ったからここは俺のペースでいかせてもらおう。悪いとは思うよ?

「お兄様、明日妹さんを預からせていただきます」
「気持ち悪いからやめろそれ」

うい行くぞとういちゃんと俺を離すように行ってしまった。2人の背中を見送りながら明日のデートプランを考えなければと俺も事務所を出て帰路に着いた。

仕掛けのない愛情表現



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