4.どうでもいいって顔してる

明後日は20代の女性向け雑誌のインタビューと撮影。同じ日に同じ雑誌の1ヶ月着回しコーディネートにういが載る。そのコーナーのういの彼氏役として撮影をさせて欲しいと連絡が来たらしい。その事について今日俺はういのマネージャーに呼び出されていた。

「悪いな。いきなり」
「今日はオフだから大丈夫だ」

社長としての仕事があるのか呼び出された場所は社長室だった。テーブルの上に資料があるからそれ目通してくれ。ちょっとこれだけ終わらせたいと忙しなくパソコンを前にして高杉はそう言った。

資料には俺がどこで撮影をすればいいかなどが書いてある。言わばスケジュールの様なもの。ラストは海沿いで夕日の背景が欲しいとのこと。ロケ現場には1時間程度かかるので14時くらいからロケ現場に向かうらしい。朝の内にスタジオ内撮影を終わらせるスケジュール。これの確認だけで済むなら俺のマネージャーに渡してもらえばいい話し。他に話しがあるのだろう。

チラリと高杉を見るとパソコンの電源を切り呼び出しておいて待たせてすまないと対面に座った。

「それに関して何か質問あるか?」
「いや、特には」
「そうか。実はなこの日俺ういに付いててやれねーんだ。別の撮影が入っちまって」
「あの駅前のスタジオだっけか? 本当スケジュール安定しねーな。あそこ」

スケジュールが頻繁に変わるスタジオなのによく無くならないもんだ。多分バックにデカイのがついてるんだろうけど。

「それでなんだが1日撮影一緒だろ? ういの面倒見てやってくれないか? この雑誌出るのまだ2回目でういのこと把握してないスタッフも多くいるだろうし」

前一緒に撮影をした時の事を思い出す。シャッター押される時以外は不機嫌なうい。フォローする人が必要というわけだ。

「俺が付いてないと一応しっかりするけど何かあったら頼む」
「仕事はしっかりするし大丈夫だろ。それにしても本当シスコンだな」
「あ? これはマネージャーとして心配して」

俺は高杉の言葉を最後まで聞かずにわかったわかったと苦笑い。この兄妹たまったもんじゃないな。にしても、彼氏役か。坂田に話したら羨ましがられそうな仕事だな。


そして当日。特に大きな問題もなくスタジオ撮影を行っている。俺も2回ほど着替え撮影をして俺のスタジオ撮影は終了しロケに行ける服装にしてある。後はういが1回着替えたら終了だ。

途中衣装やカメラマンに積極的に意見を言いながら仕事を進めていくうい。ちょっと言い方はキツイ時もあるけど別に悪い事を言っているわけではないので、特にフォローも必要無し。心配要素はなかった。

撮影が終了し時刻は12時。集合は10分前という事で13:50。昼飯は弁当が出るので隅に積まれている弁当をひとつもらっているとういは1人でスタジオを出て行った。特に気にしはしないが直々に高杉から頼まれた為気になってしまいその後を追って声をかけた。

「弁当もらっていかないのか?」
「お昼は持参してるから大丈夫ですよ」
「なら、一緒に食うか? 1階に休憩室あるし」

少し悩んだあとういはわかりました。ちょっと待っていて下さいと控え室に入っていった。数分後着替え終えたういは衣装が汚れない様に大きめのパーカーを羽織って電話をしながら出てきた。手で行きましょうと言われエレベーターに向かう。

「今休憩入ってあとロケ行ったら終わり。ん? 土方さん? 一緒にいるよ? 変わる? あ、変わらなくていいの」

電話の相手は高杉らしい。じゃあ、今日の夜も遅いんだ。早く帰ってきてねと電話を切る。あくまでマネージャーに現状報告のはず。エレベーターは1階につき休憩室に入る。簡易な椅子と長机が置いてあるだけの休憩室。貸切状態だったので適当な位置に座る。

ういは鞄からペットボトルの水とドライフルーツを取り出す。体型維持も大変だなと言うと案外夜にガッツリと食べているという。世の中の女性が聞いたら泣くな。

特に会話はなくただご飯を食べている。でも、無言でもしゃべらなければという思いは湧いてこなくて。ういも気にしてる様子はなく黙々とドライフルーツを食べている。すると意外なことにういが口を開いた。

「兄様。最近仕事忙しくてずっとひとりぼっちなんですよ」
「……寂しいのか?」

何で俺にそんな事を言うのかわからなかった。夜食事に誘って欲しいのか? なんて考えてしまう。

「たまにこういう事あるから寂しくはないんだけどふと1人なんだなって思う時があるんですよ」
「坂田でも誘ったら? 喜んで一緒にいてくれるぞ」
「あの人は勘弁です」

苦手です。連絡先も知りませんしと小さく笑ううい。その顔に一瞬目を奪われる。ういはいつも強気でいるけど本当は寂しがりやではあると思う。実際はわからないけど。

それと俺には1つ疑問があった。なぜ、高杉兄妹はずっと一緒にいるのか。仕事でもプライベートでも。別に兄の事務所に入る事は変だとは思わないがいくら仕事関係とはいえ普通の兄妹にしては仲が良すぎる気がした。

「どうしました? ボーッとして」
「いや、高杉兄妹は仲がいいよなって」
「それは、仕事でも家でも一緒ですからね。更に言えば私が生まれた時から一緒ですし」

聞けば小さい頃から親が家に居なくて高杉に面倒を見てもらっていてそれがそのまま強く根づいているらしい。

「そうだったのか」
「そうだったんですよ。私こんなんですから友達いないですし。でも楽だし兄様いるからそれでいいかなって思ってたらブラコンの出来上がりですよ」
「でも、言い寄ってくる男は多いんじゃないのか?」

土方さん今日はよくしゃべりますねと驚かれる。普段口数が少ないから驚かれるのは当然か。

「言い寄られても極度のブラコンなんで察してください」
「いた事ないのか?」

ないですよ。よくそんな性格だと思わなかったとか理想だけで好きになられたりとか勝手な人ばっかでと呆れ顔をしている。大変なんだなと返し、時計を確認すると13:40。ういもそろそろ行きましょうかと机の上の物を片付け始めた。俺も休憩室のゴミ箱にゴミを捨て集合場所に向かう準備を始めた。

「そうだ、良かったら土方さん今日夜時間あったら家来ます? ご飯作りますよ?」
「いいのか?」
「毎日作ってるんですけど1人分って難しいんですよ。良かったら」

夜予定は無いし体に気をつけなればいけない職業なのに偏った食事ばっかしている俺には好都合だ。じゃあ、お呼ばれするかと笑うと兄様に連絡はしますからねと笑った。ほら、またその笑顔に目を奪われる。



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