10.無常のゆらり

今日は夕方まで同じ撮影スタジオにいる。ういとペアの撮影だ。そして高杉もいる。休憩時間は兄妹でいるし、なかなかういに話しかけずらい。今日の夜空いてるなら食事にでも誘いたいけど、あの様子じゃ家で仲睦まじくご飯だろう。

周りにいるスタッフから今日溜め息多いですね、何かあったんですか? と言われるくらい溜め息をついているらしい。

「溜め息をつくと幸せが逃げてしまいますよ」
「何かそんな話しあるな。ってういか」

近くで高い声がしたから女のスタッフだと思ったらういが近くに立っていた。見渡すと高杉がいない。

「高杉は?」
「兄様は今日ここまでですよ。別の仕事あるんで」

いきなり訪れたチャンス。これをみすみす逃す訳にはいかない。また次いつ会えるかわからないし。

「そうなのか。……うい」
「何ですか?」
「夜空いてねーか?」
「夜ですか? 今日は暇ですね。兄様の帰り遅いし。そうだ! よかったらまた家来ます? 坂田さんも呼んで!」

この間の流れからして考えるとそうなるわな。坂田の名前が出てくる辺り本当に友達として仲良くなってるんだなと最初に会った時のイメージとは随分違う最近のうい。他人に興味を持ち始めた感じがある。

「家じゃなくて外でどうだ?」
「外ですか? いいですよ」

あっさりもらえたOKに言葉が出なかった。誰だっけ。ガード硬そうとか言ってた奴は。坂田だっけ。

「じゃあ、夜な」
「はい」

スタッフから声がかかり、残りの撮影を済ましていく。大きな問題もなく無事に終了。着替えを済まして一階のロビーで待ち合わせ。先に着いた俺はういを待っていた。数分して降りてきたういは電話をしていた。

「今終わったよー。今から土方さんとご飯食べて帰るね」

そこも報告するのか。電話を切ったういはお待たせしましたと頭を下げる。

「そんな待ってないから大丈夫だ。どこか行きたい店とかあるか?」
「私よくわからないんですよね。土方さんが行きたいところでいいですよ」
「ちょっと歩くけどいいか?」

大丈夫ですよと笑ったうい。行くかとういの歩幅に合わせて暗くなり始めてる道を歩く。

「坂田と随分仲良くなったんだな」
「実は告白されてたんですけど、友達のが落ち着くって言われて。私も友達のが楽しいなって思ってて。……そういえば私土方さんとの方が一緒に仕事してるのに連絡先知りませんね」
「そうだな。交換するか?」

しましょう! と携帯を取り出すうい。多分少し社交的になったのは坂田のおかげだろう。一応心の中で礼を言っておこう。食事、連絡先と何だかトントン拍子過ぎて怖いな。

店に着き席に通される。適当にお酒と食べ物を頼む。

「最近坂田さんが手料理食べさせろってうるさくて」
「料金とって食べさせてやれ」
「おもしろいこと言いますね。土方さん。あっでもそうなると私土方さんに食べてもらったことあるのでお金払ってもらわないとですね」

そんな冗談を言っていると飲み物と料理が運ばれてくる。お酒を一口飲んでういを見ると視線が合った。

「ういはさ、高杉が社長だからモデル始めたのか?」
「そうですよ。土方さんはスカウトでしたっけ」

大学時代就職を決めかねていた俺はその場でOKを出して今ここにいる。結果それなりに稼いで充実した今を送っている。そこから仕事の話になり、あそこのスタジオがどうとかこの間着た服がよかっただとか話しをしているとあっという間に時間が経ってしまった。

「そろそろ帰るか。送る」

会計を済まして外に出て、ういを家の近くまで送る。

「土方さん、ヒマだったら連絡くださいね」

ういにはハッキリ言わないとどうやら好きだとは伝わらない様で堪らず髪に手をやると一歩後ろに引かれてしまった。

「坂田と同じ様に友達としてか?」
「え?」
「何でもない。おやすみ」
「……おやすみなさい」

少し不思議そうにしながらも、家に入っていったういを見送った。告白のタイミングなんてどうすればいいんだかとまた溜め息が出た。



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