8.いとおしさだけが残ればいい
「ういのお友達じゃねーか」
コイツ。今日はタイミングの悪いことに高杉と撮影。ういちゃんとデートしてからは全然会ってないのにシスコン兄貴とは仕事一緒になるんだよな。連絡は頻繁にとってるけど。さっきからニヤニヤ嬉しそうにこっち見てきやがって。高杉マジでういちゃんに彼氏が出来たらどうすんだ?
「でもあんなに嬉しそうに携帯触ってるういは見たことないな」
「俺、もしかして脈あり?」
「知らねー」
一気に不機嫌になる高杉。わかりやすいやつだな。高杉の撮影の準備が出来てスタッフに呼ばれて撮影に入る。その姿を見ているとポージングの仕方だとかふと見せる仕草とかやっぱり兄妹なんだなと思わせる。っていうか俺ういちゃんのこと見すぎだな。
「では、2ショット撮りますので坂田さんお願いします」
「はい」
俺も撮影ブースに入り高杉の隣に並ぶ。いつも通りに撮影が続き写真チェックに移る。特に問題はなく撮影は終了した。
「なぁ、高杉。俺とういちゃんでペアのオファーとか来てないの?」
「断ってる」
「はあ!?」
「嘘だ」
嘘かよ。マジで焦ったわ。何で俺こんなにからかわれなきゃいけない訳。俺に妹をそんなに渡したくないか。すると高杉は思い出したようにああと声を出した。
「ういとお前と土方3人のオファーは受けといたから」
「1人いらないんだけど」
「よろしくな」
俺の肩を叩いて高杉はスタジオを出て行った。俺もその後を追って控え室に戻って携帯を見るとういちゃんから"今度撮影一緒ですね。よろしくお願いします"と来ていた。ういちゃんから連絡してくれるのは嬉しいけど。
「進展しねーなー」
誰にも聞こえてない呟きに自分で溜め息をつくしかなかった。
「坂田さんおはようございます! あっ、土方さんもおはようございます」
「おはよう、ういちゃん」
「おはよう」
3人の撮影当日。ういちゃんは俺に真っ先に挨拶に来てくれた。その光景に高杉と土方はかなり驚いた様子だ。着替えに向かったういちゃんを見ながら毎日連絡してたかいはあったなと嬉しいけど意外とそれ以上の気持ちが湧いてこない。高杉が少し悔しそうにしながら俺に話しかけてくる。
「随分懐かれたな。よかったな」
「ああ」
「何だ? 嬉しくないのか?」
「嬉しいけど。案外ここのままでもいいかもな」
土方は何の話ししてんだ? という顔をしている。そうか俺がういちゃんとデートしたこと知らないんだっけ?
「あんなに愛想のいいうい初めて見たんだがお前ら付き合い始めたのか?」
「まっさかー。友達にはなったけど」
へーと特に興味無さそうに俺も着替えてくると土方もスタジオを出て行った。
全体的に準備が整い撮影が始まる。始まったのはいいが、スタッフの1人が撮影ブースに入らないとわからないくらいの加減でやたらういちゃんに触っているスタッフがいる。ういちゃんはやんわりと避けているけどこういう時真っ先に高杉が飛んで来そうなのに。……いつものことなのか? そう思っていたけど次の瞬間に腕をさり気なく胸に当てようとしていたので腕を掴んで止めようとしたが先に違う腕が伸びていた。
「おい。あんまりやってると騒ぎ立てるぞ」
それは土方の腕でそのドスの聞いた声も土方の声だった。俺は伸ばしかけた腕をどうすることも出来ずポケットに突っ込んだ。
「そうそう。もうしないなら黙っててあげるよ」
ういちゃんは私は大丈夫ですと言っているけどこのまま見過ごすとエスカレートしそうだしなぁ。高杉は俺たちの行動に気づいたのか溜め息をついているけど他のスタッフは俺たちがただ会話をしているだけに見えているのかそれぞれの仕事している。
「すみませんでした」
小さい声で謝ったスタッフはさっさとういちゃんのメイク直しをしてブースを出て行った。ういちゃんに声を掛けようとしたけどすぐに撮影が始まった。その後少し気まずい空気があったけど撮影は終わった。
さっきの事でういちゃんに声を掛けようとタイミングを見ていたけど先に声をかけたのは土方だった。ういちゃんに気の無い素振りだったのにズルい奴だな。土方はういちゃんの手を引いてスタジオを出て行った。俺もブースを出ると高杉が出て行った2人の後ろ姿を見ていた。
「気をつけるのは俺じゃなくて土方だったんじゃない?」
「銀時はいいのかよ」
「俺は……お友達のままでいいわ」
実際楽しいし誰より先に挨拶してもらえただけで満足だ。俺はういちゃんの友人でいい。素直にそう思った。
いとおしさだけが残ればいい
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