3.明日の事さえわからずに
午後3時。今日最後のコマが休校になり特に用事も無いので真っ直ぐ家に帰るとライがいた。おかえりと言ってなにやら忙しいそうにパソコンのキーを打っている。荷物を部屋に置き、ライの隣に座り見えてしまうPC画面。
「こんなとこで堂々と潜入報告ですか」
「割と落ち着くんでね」
どういう神経をしているのだ......ってこんな仕事をしていたらこんな神経にもなるだろうと自己解決。日々神経をすり減らして疲れた頭には甘いものだろう。
「ライは甘いものは好きですか?」
「あまり得意ではないな」
甘さ控えめのクッキーが余っていたはず。それとコーヒーを入れよう。私のコーヒーにはミルク。ライはなんとなくブラックでいいかな。
「クッキーとコーヒーです。よかったらどうぞ」
「ありがとう」
一応ミルクと砂糖も用意していたけど手をつけないってことはブラック派な様子。クッキーも食べてくれた。
「ういは俺の顔を知っていたな。本当は本名も知っているんじゃないか?」
「そこまで思い出せないですよ。母が名前を教えてくれたのは覚えているんですけどさっぱり思い出せません」
私の顔をじっと見ていたライはならいいという顔でパソコンに視線を戻した。なぜ、そんな事を気にしているのだろう。どちらにしろ組織に名乗ってる名前は偽名だろう。どちらかというと組織に近い私に本名を聞く必要性はないけど偽名なら聞いてもいいかな。
「ライは組織になんていう名前で名乗ってるんですか?」
「諸星大。本名は......」
ああいいです。いいです。私は慌ててライの言葉を遮ったのに本名は赤井秀一だとあっさりと言われてしまった。教えてしまっていいのだろうか。
「別にういに知られてマイナスになることもないだろう。ジンに俺の正体を言わないのが何よりの証拠だ」
私はきっと面をくらったような顔をしていると思う。そうですねと言うのが何故か精一杯でライが何を考えてるかさっぱりわからない。
「この間私に日本警察が保護するかもしれないって言ってましたよね」
ああ。とパソコンから視線を外さずにそう答えるライ。近いうちにもしかしたらそうなるかもしれないですと言うと不敵にライが笑った。
「俺の予想通りそうだな」
私には何が起きているのか知らない。けれどジンと引き離される未来はそう遠くないのかもしれないという思いが一瞬頭をよぎった。
明日の事さえわからずに
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