向かった先

わかっていた。あなたは人気のテニス部の部長で、私はマネージャーでもないただの立海の生徒で。

確か最初に気になったのは、たまたま通りがかったテニスコート。練習を黙々をしている幸村君に惹かれたのが始まり。それから学校が終わった後に用事の無い日はテニスコートに通った。

当然の様にギャラリーはすごくて、幸村君狙いの子なんて大勢いて。その大勢は私なんか比べ物にならないくらい魅力的な子達ばかりだった。

そんな通う日々が続いて3年生の2学期。美化委員になった私は委員会に向かった。同じ教室には私がいつも遠くから見ていた幸村君が同じ教室にいた。今日の議題は委員長と副委員長を決めるというものだった。なかなか決まりそうにない委員長決め。普段から暇だしこのままだと帰れそうになかったので、自主的に委員長に決まった。副委員長ならと言ってくれた子もいてその後はスムーズに委員会は終わった。帰る準備をしていると先生が近づいてきて委員長ということだからとプリントのまとめを頼まれてしまった。渡されると先生は他に用事があるから終わったら私の机の上に置いておいてと言って出ていってしまった。結構量があったので副委員長の子にも手伝ってもらおうと教室を見渡してみたけど、すでに帰ったあとだった。仕方ないと席に座り直すと大変そうだねと声が聞こえた。顔を上げて声のする方を見ると幸村君がそこにいた。いつも遠くにいる幸村君がすぐそばにいる。私、すごくドキドキしてる。

「あっ、先生に頼まれちゃって。幸村君はこれから部活?」

意外にも冷静に返答できた私。そうだよと返してくれたことにもドキドキしてる。手伝うよと私の前にあったプリントを半分持って隣の席に座った。隣に座ってる事実にさらに心臓が高鳴る。

「いいよ! 幸村君! 部活でしょ?」
「2人でやったら早く終わるから大丈夫だよ。えっと、美鈴さんだよね?」
距離が近くてつい慌て口調になってしまう。それに名前呼ばれた。私、自己紹介したっけ? ふと前を見ると私が委員長に決まった時のままの黒板。ああ、名前書いてあるままだったのか。

「そういえば、俺の事知ってるんだね」
「だって人気者じゃない」

それにずっとあなたを見ていたなんて言えないけれども。

「人気者って言われてもピンとこないな。仁王とか見てると人気だなって思うけどね」

意外とそんなものなのかな。でも、いろいろ言われてるけど同じ学年なんだよね。何か信じられないけど。

「幸村君って入院してたんだよね? 体大丈夫なの?」
「うん。調子いいよ。問題無く部活にも参加出来てるし。真田が口うるさいけどね」

真田君らしいなとぽつりと呟くと真田と知り合い? と聞かれた。知り合いというより小学校から一緒というだけなんだけどね。それから他愛もない会話をした。そしてこの一件からたまに一緒に話したり、廊下ですれ違ったときに挨拶を交わす程度になった。

告白に踏み切ったのは、友達の何気ない一言。幸村君って好きな子いるらしいよ。噂だけどね。私はその噂を酷く気にしていた。それに気づいていた友達に本人に直接確認すればいいと言われた。それが後押しとなり今度話す機会が会ったらそれとなく聞いて見ようと思った。

話す機会が出来たのはまた私が委員会のことで頼まれごとをしている時だった。今回は前より量がある。今日は帰り遅くなるなと思いながらとりかかる。黙々と作業をしていたら聞こえてきた声。

「またやってるの?」
「うん。また頼まれちゃった」
「じゃあ、手伝ってあげるよ」

隣の席に座った幸村君を見るとテニス部のレギュラージャージ。こんなに間近で見れるとは。少しの無言が続き教室には紙を折る音しか聞こえない。

「噂で聞いたんだけどね。幸村君好きな子いるの?」
「うーん。そういう噂って何で出回ってしまうんだろう」

え? じゃあ、本当に噂なのかななんて期待した私がバカだった。

「噂だけど本当だよ」

私の中で何かが崩れ去っていってこれが失恋なのかと思った。勢い任せで言ってしまったりなんかして本当にバカだ。

「そっ……か。私、幸村君のこと……好きなんだ。でも、好きな子いるならしょうがないね」
「……ごめん。気持ちは嬉しい。ありがとう」

そんな優しい言葉いらなかった。目の前の作業が丁度片付いたときで良かったな。

「私これ職員室に持っていくね。手伝ってくれてありがとう」

幸村君はいつもと変わらない優しい声でいいよと言って部活に戻って行った。その後ろ姿を見つめながら目頭が暑くなっている自分がいた。


向かった先
(それは、)


++++
少し寂しい昼休みの幸村君と同一人物





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