惚れたわけではないけれど

パーンとボールを打つ音が響く。今日の部活も無事に終わり、部誌を書き終わり帰る途中だった。もう辺りは暗く校内には人がほとんどいない。でも、ボールを打つ音がしているということは、誰かが自主練をしているのか。日吉かな。いやさっき帰って行ったのを見たな。宍戸と長太郎? 違うな。2人してコンビニに寄っていくって言って帰って行った。一人一人思いだしては帰って行った事を思い出す。

テニスコートを覗き、自主練をしている人影に目を向ける。我らが部長様だ。跡部とは部活が終わってから顔を合わせていなかったな。私には気づかずに黙々と壁打ちを続ける跡部。しばらく見ていても終わる様子はなく、話しかけるのも悪いなと思い帰ろうとしたらボールの音が止まったと同時に私の名前を呼ぶ声が聞こえ振り向く。そこには汗を拭いながらこちらを見ている跡部がいた。フェンス越しで少し遠くにいる跡部に聞こえる声量でお疲れと声をかける。

「まだ帰ってなかったのか」
「うん。帰ろうかと思ったけど、ボールの音が聞こえたから」

少し前から見てたと言えば、全然気づかなかったと返ってきた。跡部を見るとこっちに来いと手招きをしている。素直にフェンスの端にある扉を開けて小走りで跡部の元に駆け寄る。

「何?」
「軽くやってみるか?」

そんな無茶な。運動は適度には出来るし、テニスもした事がある。でも、跡部のテニスの相手をするには無理があり過ぎる。無理を連呼する私にラケットを差し出してくる。一向にその手を引っ込めてくれないので、私は渋々ラケットを受け取るとそれを見た跡部は満足そうにコートに入れと言って来た。まぁ、すぐ終わるか。肩にかけていた鞄を跡部の鞄の横に置き、コートに入った。

「私、 跡部の相手なんか出来ないからね」

跡部も十分わかっていると思うけど一応言っておく。ふっと笑った跡部はサーブをする構え。反射的に格好だけでもと構えて見る。打ったボールは普段の跡部のテニスからは想像出来ないほどの優しい球で、なんとか打ち返した。しかしコントロールなんて皆無であらぬ方向へとボールは気道を描く。ほぼホームランボール。飛んでいくボールを目で追っていると空中に跡部が現れラケットを振った瞬間。私の真横をボールがバウンドもせず勢いよく芝の上を駆け抜けていった。いつも見ているスマッシュだ。

「固まってるぞ」

顔に流れる汗を拭いながら微かに笑っているのが見える。そしてこちらに視線を向けるとどうだ、俺のスマッシュはとでも言い出しそうな顔で私を見ている。スマッシュの衝撃から動けるようになった体で、後ろの方まで飛んで行ったボールを取りに行ったあと、小走りで帰る準備をしている跡部に駆け寄った。

「何かのアトラクションを体感した気分だよ」

そう感想を言ってテニスボールとラケットを渡す。そうかと短く答えた跡部はボールとラケットを受け取り鞄にしまって、鞄を肩に背負った。

「帰るか」

私も隣に置いていた鞄を肩にかける。周りは帰ろうとしていた頃よりももっと暗くなっていた。テニスコートのライトを消し、帰路に着く。

「跡部迎えとか来てないの?」
「今日は歩いて帰る予定だったからな。まぁ、来ていたとしても一緒に帰るけどな」

どういう意味? と聞くとこんな時間にうちのマネージャーを1人で帰すわけには行かないということらしい。家まで送ってくれるということなのかな? それにしても跡部に送られてるところなんて見られたら私は明日どんな目に合うのだろうか。ただでさえ男テニマネとしてチクチク視線が痛いのに。

別に会話をするわけでもなく、ただ歩く。私は歩くペースが遅いほうだが、跡部はちゃんと合わせて歩いてくれている。容姿のファンは多いだろうけど、こういう跡部の優しさとか知っているのはどれだけいるのだろう。私だけだったりするのかなと少しだけ優越感に浸ってもいいのだろうか。

「何、笑ってる」
「いや、何でもないよ」


惚れたわけではないけれど
(送ってくれてありがとう)





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