私と先輩

私は先輩に少し嫉妬している。そしてそれ以上に尊敬をしている。

「おい。うい! タオル」
「はい、宍戸先輩」
「悪い。奏」

今日その先輩はお休みだ。どうやら風邪をひいたらしい。隣にいた鳳君もタオルを渡す。

「今日はうい先輩が休みで寂しいね」
「うん。仕事も増えるし明日には出てこれるのかな?」
「だといいけど……。俺今日メールしてみるよ」

そう言って鳳君は練習に戻って行った。よし、次は洗濯だ。いつもより多めの洗濯物を抱えて歩いていると洗濯物の陰から滝先輩が見えた。今日うい休みなんだって? と聞かれ風邪みたいなんですよ。と答える。これ運ぶんだよね。手伝うよと笑って、半分以上も持ってくれた。滝先輩のこういうところ、男らしいと思う。

「いいシャンプー見つけたんだけど、ういは休みなのか」

そう呟いた先輩。先輩は男らしい一面もあるし女子力も高い。私にも今度教えてくださいと言えばじゃあ、奏に合うようなの見つけたら教えるよと。洗濯機の前まで運んでもらい、これ以上滝先輩に手伝ってもらうのは悪いので練習に戻ってもらった。

何とか洗濯機を回し終えて、洗濯物を干しにかかった。コートの方は休憩に入ったらしく楽しそうな声がコートから聞こえる。それをBGMに黙々と洗濯物を干す。今日はういが休みやから大変やな。急に後ろから聞こえた関西弁。振り向けば忍足先輩がいた。

「先輩はすごいですよね。私が入る前はこの量を1人で。ドリンクやタオルの準備が各自になってすみません。皆さん疲れてるのに」
「まぁ、しゃーないわな。奏ちゃん1人じゃ手ェ回らんだろうし」

手伝うわと手に持っていた物を空いた洗濯カゴの中に置き、洗濯物を干し始めてくれた忍足先輩。そのカゴに置いた物を気になって見てみると少し前に流行ったラブロマンスのDVD。私の視線に気づいた忍足先輩。それな、ういに貸す予定やってん。今日休みやったから残念やわ。奏ちゃん見る? と聞かれたが私はそんなにラブロマンスに興味は無いのでラブロマンス苦手なんですよねと断った。

そんなやり取りをしている間に洗濯カゴの中は全て空になった。休憩もすでに終わっていたのに手伝ってくれた忍足先輩にありがとうございますとお礼を言う。

「そういえば、悪いんやけどジローと岳人探して来てくれへん?」

わかりましたと返事をして、洗濯カゴを元の場所に返しに行った。さて、次は芥川先輩と向日先輩を探しに行かないと。芥川先輩はわかるけど、いつも元気にコートにいる向日先輩がいないのは珍しい。

とりあえず芥川先輩の居場所はだいたい検討が着いているので、迷わず中庭に足を運ぶ。私の予想は当たりで木陰で芥川先輩が気持ち良さそうにお昼寝中。隣を見ると向日先輩もお昼寝中。向日先輩の寝顔ってなんか珍しいなと思いつつ、2人を起こしてみる。

「起きてください! 練習始まってますよ!」
「んー……。うい。おはよー……」
「今日美鈴先輩はお休みですよ。芥川先輩。向日先輩もおはようございます」
「おはよー……。あれ? 俺寝てたんだ」
「向日先輩が部活途中に寝てしまうなんて珍しいですね」
「なんかジロー見てたら急に眠くなったんだよなー。よし、俺練習戻るわ」
「はい。ジロー先輩も早く戻った方がいいですよ」

んーと言いながら起き上がる芥川先輩。そういえば今日ってうい休みなんだよなー。風邪かなんかかなー。早く元気になるといいC。そんな会話をしながら戻って行った2人。そのあと私もコートに戻り球拾いやらいつもより少し慌ただしくマネージャー業をこなした。

練習が終わり私も周りを片付ける。みんなが着替えてだいたいが出払った頃に私も部室に戻って後は部誌を書くだけだ。部室の扉を開けるとまだ日吉君が残っていた。うい先輩。明日の予定……。そう言いかけて、私に気づくとごめんなと続けた。少し顔が赤いのは気のせいだろうか。

「日吉君。美鈴先輩はお休みだよ」
「そうだったな。……じゃあ、先に帰るな。お疲れ様」
「お疲れ様ー」

ガチャと扉を日吉君が開くと入れ替わりで跡部先輩と樺地君が入ってきた。すでに着替えを終えていた樺地君は鞄を取りに来たらしく、今日は……奏さんお疲れ様でした。……お先に失礼しますと部室を出て行った。残った跡部先輩はまだ着替えを終えていなかった。

「お疲れ様です。私出ていきますね」

そう立ち上がろうとしたら部誌もう書き終わるじゃねーか。待っててやるよ。と言われた。ありがとうございますとお礼を言い部誌を書き進める。跡部先輩は部室を見回したあと他にすることがないようなのか私の隣に座った。

「今日はういがいなくて大変だったな。ご苦労様」
「いつもの倍動いたので、さすがに疲れました。でも今日先輩が休んで皆さんがどれだけ先輩に信頼をしているかよくわかった気がします」
「……ちょっと嫉妬してんだろ。……その顔は図星だな。そう考えるな。奏だって必要な存在だ。何より部内で頼りにされてるヤツが1番お前を頼ってると思うぜ。それってすげー事なんじゃねーの?」

きっと私は今面食らった顔をしているのだろう。まさか跡部先輩にそんな事を言ってもらえるなんて思いもしなかったからだ。跡部先輩が部誌を覗き込む。部誌はあと今日の練習メニューを書いて終わり。

「あとは俺が書いておくからもう帰っていいぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

私は帰る準備を始めた。携帯の開く音がして振り向いて見えた跡部先輩の携帯の画面。映し出されている文字は美鈴先輩の名前。どことなく嬉しそうな跡部先輩。

「もう明日には学校に来れるそうだ」
「良かったです! 跡部先輩はお見舞い行かれるんですか?」
「ああ。帰りに寄って行くつもりだ」
「そうですか。私からも一言お大事にと伝えておいてください」

それから部誌お願いします。お疲れ様でしたと言い、部室をあとにした。


私と先輩
(来年は先輩みたいに部を支えていこう)
(そう思った夕暮れ)




おまけ
「お前が来ねーとみんな調子がおかしいんだ。早く来い」
「明日には回復してるってば。そんな心配しなくても大丈夫だから」
「そういえば、今日奏大変そうだった」
「悪い事しちゃったなー」
「でもしっかりやってたぞ」
「そうだよー。私よりしっかり者だもん」
「そうだな」
「そこは否定するとこでしょ!」
「知るか」





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