昔の面影を仄めかすな
独特の化粧の匂いが後ろから漂ってくる。ああ、もう勉強の邪魔だ。俺は机に向かいながら後ろで顔を作ってる幼馴染に声をかけた。
「うい。何で俺の部屋に来るわけ?」
「さっきも言ったじゃん。家の鍵忘れたから入れないって」
化粧品と化粧品が擦れる音がしてカチャカチャとポーチの中が鳴る。中学までは普通の女の子だったのに。所謂高校デビューに成功したういは毎日友達と遊び歩いている。今日は合コンだとかなんとか。
「精市」
「何?」
「高校の部活はどう? あんまり中学と変わらない?」
「んー。そうだね。でも一応後輩だし大人しくはしてるよ」
「精市の大人しくしてるってあんまりアテにならなさそう」
中学の時はよく練習を見に来てくれたけどそんな事も無くなった。後ろから音がしなくなったと思ったら鞄を持って立ち上がった雰囲気がしたので、俺はペンを止めて後ろを振り返る。
「そろそろ時間だから行くね」
バイバイと手を振って部屋を出て行ったういは少し知らない人に見えた。
「そのままでいいのに」
俺の小さな声は扉が閉まる音でかき消された。