卒業

卒業式。別れの季節。とても切ない心地良さがあるのに、どうしてもどっぷりとその心地良さに浸かれない。卒業式も終わり教室で話しをする担任の沖田先生。少し前でのお酒の席で彼が言ってた言葉がフラッシュバックする。

「やっと卒業式でさぁ。卒業式の次の日飲み会やりましょーや。やっとストレスから解放される。あっ、ちゃんとみんな進路決まって嬉しいですぜ」

私とまゆを前にしてそれを言うか? いやね確かに教師の視点から見たらストレスでもあるかもしれない。それはわかるけど、こうなんかもう先生の授業が受けられなくて寂しいです。俺もみんなの教師でよかったでさぁ。みたいなさー。まぁ、そんな事思ってる私もやっと生徒じゃなくなるって安心感の方が強いんだけど。

「ほとんどが同じ大学に進むけどまた何かあればいつでも高校に遊びにくるといいでさぁ」

周りは泣いてる。……泣けない。泣けない上に卒業した次の日会うし。そうか教師が身内にいると卒業ってあんまりさみしくないね。

いや、校舎とか今まで教えてくれた先生達にはもちろん感謝はしているけどね。しーちゃんとかなちゃんの吹部の演奏もとても感動して泣いた。

複雑な気持ちの中まゆも同じ感じなのか私の方を見て苦笑い。しかし沖田先生はちゃんと沖田先生をしている。先生の話しが終わりあとは自由解散。グラウンドでは先生達が出ていて生徒たちが好きにしゃべったり写真を撮ったりしている。私だって写真くらい撮りたい。けどあまりの人の多さに近寄れなそうだ。教室の窓から眺めていると隣にいるまゆが人すごいねと苦笑い。

教室では沖田先生写真撮影会となっている。沖田先生とも撮っておく? まぁ、最後だし。人がひいたタイミングを見計らい沖田先生に声をかける。

「せんせー。写真撮りましょー」

沖田先生を真ん中に1枚写真を撮る。2人が教室にいていろいろ助かったでさぁと言って教室を出て行った。廊下ですぐ捕まってたけど。その横を通り過ぎ靴箱に行くとタイミング良くかなちゃんと愛ちゃんに会った。気づいたかなちゃんがこちらに向かって手を振る。

「まゆ先輩! うい先輩!」
「卒業おめでとうございます!」
「ありがとー!」

折角4人揃ったし写真撮ろう! と私が携帯を構えると4人とも画面に収まろうとくっつき合う。後で送るねと写真を確認する。

「先輩達は今からあそこに突撃ですか」

大変そうと言いながらグラウンドを見ながら言う愛ちゃんの顔が引きつっている。まぁ、最後だしとまゆが気合を入れている。まゆの気合に続くようによし、行くか。と私も気合を入れ2人とバイバイした。2人で行くとただでさえ人が多いので1人で行ったほうがいいだろうとそれぞれ会いに行くことにした。

さて、土方先生。いつも以上に囲まれているのは気のせいでしょうか。少し集団の周りにいると徐々に人が引いてきて向こうから手を挙げて呼んでくれた。

「土方先生」
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます。こうやって学校で話すこともなくなるんですね」
「ああやっとだな」

そう笑う土方先生にバレちゃいますよという意味を込めて軽く胸を叩く。私のこの行動も危ういけど最後だしいいや。

「写真撮りたいんですけどいいですか?」
「もちろん」

私が自撮りで携帯を持つと2人が入り切らない。どう撮ろうと角度を決めかねているとひょいと手から携帯を奪われる。びっくりしてる私にほらと肩に腕を回され普段取ってるような位置取りになる。これを逃したら写真を撮れなさそうなので咄嗟にピースサインをして写真を撮った。手に携帯が戻り耳元で後で連絡いれると私にしか聞こえない声でそう言った。

私と土方先生の話しが終わった途端にまたすぐ違う女の子が話しをかけていてそれに優しく対応している土方先生につい頬が緩んだ。



坂田先生の所に行くといつもの顔ぶれが周りを囲んでいる。一瞬目が合ったと思ったら上手く女の子をあしらってこっちに来てくれた。

「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」

もうこの場所でビクビクすることもないなと耳元で言われる。私はうんと返し携帯を見せ写真撮りたいんですけどいいですか? と聞くと撮ろう。撮ろうと携帯を奪われる。慣れたようにいつもと同じように写真を撮る。心配そうに周りをキョロキョロする私にさほど気にしてないってと頭に軽く叩かれる。

「坂田先生の授業楽しかったです」
「本当にそれ思ってる?」
「思ってますよ」

照れくさそうに笑った坂田先生はありがとなと言うと腕時計を確認してそろそろ職員室戻るわと言った後また小声で後でなと行ってしまった。制服を着てここで坂田先生に会うのは最後なんだと後ろ姿を見ながら少し寂しくなったけどすぐに嬉しさが勝ってしまって案外自分は単純だなと笑った。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -